出版編集研究部会 発表要旨 (2008年2月26日)
『新潮日本語漢字辞典』を編集して
小駒勝美氏は,子供の頃から自分で漢字辞典を作ったほど漢字に関心が深かった。その体験を生かし,漢字辞典に対する思いを企画,新潮社の創立110周年記念出版として力を入れ,実現したのが『新潮日本語漢字辞典』である。
企画から刊行まで11年もの時間をかけて小駒氏を中心とする担当編集者たちが同辞典に注いだ思いは格別である。
「漢字は日本語である」という考えから,従来の漢和辞典と異なる,日本語の文章を読み書きするための本格的な漢字辞典を企画,編集・執筆したのである。
従来の漢和辞典のような漢字文化を吸収するためのものに止まらない特色とは,
(1) 日本語としての漢字を知るための辞典という基本思想
(2) 漢字1字の定義を日本語での意味を中心に説明しており,熟語の例と文学作品からの用例が一体となることで,わかりやすくなっている
(3) 音読熟語は,よく使う言葉を中心に採録
(4) 熟字訓のあらゆる読み方を収録
(5) 日本独特の異体字,手書きに使われる異体字を収録
(6) 日本の近代文学からの名文を引用した用例を収録
(7) それぞれの字の来歴や注意点まで説明した参考欄
(8) 普通の熟語を人名・地名で使う場合もカバーしており
(9) 親字,部数の画数を調べるツメ,検字番号,部首の一覧といった,これらを縦横無尽に利用するアクセス
(10) 部首,音訓,総画,熟語,索引とあらゆる面に編集の目を配ることで,従来の漢和辞典とは違った特色を試みた。
編集者としても過去に作ったことのない辞典の編集を経験不足の中でも続けられたのは,「今までなかった辞典を作る」という思いを貫いたためであり,社としてもそのような編集者の考えを尊重し,支持した。3072頁ものボリュームに,見出し字総数15,375字,常用漢字47,000語,人名漢字などを収録,JIS漢字は第1水準から第4水準まで収録し,JISコードも併記している同辞典は初版1万部が売り切れになり,4刷まで増刷するほどの好反響を得た。
文芸中心の出版物で知られる新潮社から漢字辞典が刊行され,その反響や刊行までの経緯を聞こうと,研究会には多くの人々が参加した。
参加者の中では辞典の刊行に長年のノウハウを持つ出版社の編集者も参加し,活発な感想や質疑討論も交わされた。
(文:蔡星慧)