アマゾンの新戦略が出版産業にもたらすもの
――これからの出版産業・出版流通問題を考えるために
高須次郎 (出版学会会員・緑風出版代表/日本出版者協議会相談役)
アマゾンの新戦略と出版流通の問題を考えるために、まず、前提としてアマゾンの直取引への動きを確認してから本題に入った。
1.アマゾンの日販バックオーダー中止と直取引の呼びかけ
2017年(平成29年)5月、アマゾンが日販バックオーダー中止を発表。e託販売で直取引の販売拡大呼びかけ。6月末までに契約すれば仕入れ正味60%を65%でと交渉(現在は、仕入れ正味60%の電話攻勢)。
2.アマゾン直接取引の拡大
直取引額比率は2016年11月約35%から、2017年8月45%へ上昇。2019年1月31日の発表では、直取引を行う出版社は2942社(前年2400社)、2018年の売上の直取比率56%、取次経由44%。所沢の直取納品センター利用は315社(すべて出版社と考えられる)、参加倉庫会社43社。
3.アマゾンが「買い切り・時限再販」方針表明
2019年1月31日、アマゾンが「買い切り・時限再販」の積極的展開、直取引出版社を対象に商品を選定して実施と表明。
(この講演直後にアマゾンの仲間卸を名分にした書店向け取次業参入が発表され、既存取次店が直接標的となった。これもアマゾンのシナリオの内といえる)
このように、アマゾンは明確に「買い切り・時限再販」方針を打ち出している。ではその方針にどう対応すべきなのだろうか。アマゾンはほとんどの直取引出版社と、出版業界のヒナ型の再販契約を結んでいない。契約内容はe託契約である。出版再販研究委員会は、再販契約を結ばない書店には出版社は再販商品を卸してはいけないというルールの遵守を周知すべきである。
ここで現在の再販制度を再確認しておく。公正取引委員会の発言からも、主体は出版社にあり、出版社の自由意志で行われるものである。逆に言えば、小売店側や小売団体による要求は、自由意志を妨げるものとなる。買い切りにするから仕入れ値を下げるという交渉は取引条件の問題だが、買い切りにするから値引きをして販売するというのは小売店側による時限再販要求で、現行再販制度に反する行為である。この原則でアマゾンの時限再販要求を断れる。
一方で、従来の取次が危機的な状況にあるのはすでに明白である。日販の状況を見ても、大手版元のアマゾン直取引の拡大、主力書店の帳合変更、文教堂HDの経営危機と大規模閉店など、問題は山積みである。しかし、取次のルートは中小零細の出版社にとっては死活的に重要なルートである。中小零細出版社には全国配本・返品や集金能力はないからだ。アマゾンの方針に対抗するためにも、取次との協力は欠かせない。
昨年、アマゾンジャパンの法人税納付が話題となった。これは出版協(日本出版者協議会)が2012年から問題としてきたアマゾン商法(税金回避)を裏付けるもので、国際的なGAFA規制の動きの中での一定の成果ということができる。しかし、単純には評価できない。ここで納税したのはあくまでも日本国内で法人登記している日本法人アマゾンジャパン合同会社としての売上についてであり、消費税も納めている。しかし日販などの契約先であるシアトルのAmazon.com Int’l Sales, Inc.などに関わる売上は対象外であり消費税も納めていない。今後も国際的なGAFA規制の動きなどと併せて状況を確認する必要がある。
では打開策はあるのか? これは単純な話ではなく特効薬もない、しかしいくつかの提案は可能である。ひとつは取次流通ルートの確保である。このためには取次には一定のダウンサイジングが必要となるだろう。
また、再販の遵守、高正味の引き下げなど正味の内実を見直すなどの取り組みも必要である。なによりも、個別の出版社がきちんと考え、出版業界として動くという状況を作らなくてはならない。個々の出版社の経営が非常に厳しいのは事実であるが「我が社だけなら良いだろう」と考えていては、状況は改善しない。
(文責:鈴木親彦)
参加者:40名(会員25名、一般15名)
会 場:専修大学神田キャンパス 5号館4階542教室