PBL(Project Based Learning)型出版教育が“社会で求められる力”の育成に寄与する可能性 橋本嘉代 (2016年3月7日)

■出版教育研究部会 発表要旨(2016年3月7日)

PBL(Project Based Learning)型出版教育が“社会で求められる力”の育成に寄与する可能性
――学生主体のコンテンツ制作ゼミの取り組みを事例として

橋本嘉代
(筑紫女学園大学文学部講師)

 「オールドメディア」扱いを受けたり経費削減で十分な制作実習費が得られないなど、大学における出版教育は厳しい状況下にある。教育効果や意義について周囲への理解を求める努力も欠かせない。こういった逆風のなか、大学で「出版」を教育する意義として何を提示できるか? という問題提起をさせていただいた。
 報告者が担当するゼミでは、学生がPBL(Project Based Learning)形式で、小冊子制作の諸過程(企画立案、スケジュール管理、取材交渉、写真撮影、原稿執筆、デザイン制作、取材先への確認)を体験する。学生同士の協働作業も多く、受講者は一年間のゼミで大きく成長を遂げると感じられる。このタイプの出版教育は、いまニーズが叫ばれる“社会で求められる力”とされるものを養う教育方法として有効と主張できるのではないか。大上段に構えすぎている自覚はあるが、今回、あえてこの仮説に沿ってゼミの教育効果の検証を試みた。方法は、経済産業省の「社会人基礎力」など、国が必要と示す「力」の諸要素について「とても身についた=4」から「全く身につかなかった=1」までの4段階尺度で、学生の「自己成長感」を測るというものである。
 ゼミを受講した学生(N=8)によると、「社会人基礎力」12要素のうち、「主体性」「発信力」「実行力」などが身についたとの実感が強い(4段階評価で平均3.88~3.75)。また、12項目の合計ポイント(最高48)は、平均値42.5、最高値47、最低値39と、高水準であった。今回報告した取り組みにおいては、学生たちは「社会で求められる力」とされるものを全般的にバランスよく身につけることができたと実感している。質疑応答でも指摘があったが、主観的な評価であるという限界はあり、少ないサンプル数では一般化が難しい。しかし、指標を用いて数値化する取り組みが蓄積されれば「出版教育の意義」として示せるものが見えてくるのではないかと考える。
 質疑応答では、業界規模や門戸の狭さ、学生の堅実志向や地元志向などから学びが直接生かされる進路(出版社など)に就職する学生が少ないが、教育現場では就職先以外の成果が認められにくいとの意見が出るなど、活発な意見交換がなされた。部会長からは「出版“を”教育する」でなく「出版“で”教育する」という学びへの着目である、とのコメントをいただいた。
 末筆ながら、部会長の清水一彦先生、幹事の蔡星慧先生、会場を手配してくださった石川徳幸先生、ありがとうございました。

*部会参加者12名(会員9名、非会員3名、於日本大学法学部3号館329講堂)
(文責:橋本嘉代)