■ 出版教育研究部会 発表要旨(2011年8月3日)
大学における出版教育のあり方を考える
――大学におけるシラバス調査から
蔡 星慧
本調査研究では大学における出版関連科目のシラバス構成及び科目担当者の意識調査から,出版教育のあり方を考えてみた。問題の所在は,・大学における出版関連科目はどれくらいあるのか,・関連科目はどのような内容をもって教えられているのか,・科目を担当しているエデュケーターの出版教育に対する課題意識を見る,・大学における出版教育の体系性と課題を考える,・大学のメディア教育に関するカリキュラムの中で,出版教育の位置づけを考える目的意識から始まっている。
調査の手続きは出版教育研究部会の共同研究として2010年4月20日-5月20日の1ヵ月間に,学会会員を対象に出版関連科目を把握するためのアンケートを実施した。科目担当者,担当大学学科,開講名,本調査における提案点などの回答を依頼した内容である。
本調査は2010年9月17日-10月15日に事前調査に応じた学会会員28名,2007年版『総合ジャーナリズム研究』掲載「全国大学マスコミ関係科目一覧(上)(下)」の出版関連学科担当教員及び学科宛ての計68ヵ所に調査依頼を郵送した。分析対象は調査に応じた23通の回答である。
回答の分析をいくつかまとめてみると,まず担当科目の区分は・教養として概論的に出版メディアに触れる,・隣接メディア,他メディアと併行(新聞出版論,ジャーナリズム演習,文章作法…),・実習製作演習(原稿指定入門,印刷製本知識,書籍製作,DTP…)に分けることができる。
これらのカリキュラムから考えられる課題は,大学における出版関連科目が,専門カリキュラムに力点を置くより,教養科目・他メディアの隣接科目として総合的に構成されていることである。
しかし,東海大学(雑誌メディア論・雑誌編集技術・新聞出版論),大手前大学(ユニット制による編集実習コース),実践女子短期大学(日本エディタースクールの編集コースを参考)のように関連科目に力を入れているケースもある。産学連携の有無に関してみると,大学と出版界との連携が乏しく,課外授業や外部のゲストスピーカーによる授業に対しては必要性を覚えないという回答が多かった。
近年,大学において関心が増えているインターンシップに対しても,学生のモチベーション向上を考え,大学側がリーダーシップを取るべきという指摘が見られた。
調査後の知見は,・大学における出版教育の対応とカリキュラム構成を独立した科目として関連科目の専門性を高め,教える人材体制を再考すること,・出版の仕事や出版界の全体図を理解するためにも,回答者の多くが指摘している学生の基礎教育問題(思考力,文章力,プレゼン能力など)の意味合いを考えること,・ニーズとして増えている産学連携を大学はどのように考えていくか,長期的なプランが必要ではなかろうか,・教える側として出版とは何かを考え,理解するためのリテラシーの問題にいかに徹し,科目の内容を構成していくかの課題認識である。
研究部会では,出版関連科目のカリキュラムやシラバスの内容を,出版界の全体図や現状,メディアとしての出版を実学としての出版,教養としての出版,編集過程を伝える実習としての出版をどう伝えるかなど,参加者からの問題意識も提示された。
(文責:蔡星慧)