■ 日本出版学会 雑誌研究部会 開催要旨 (2019年11月14日開催)
海外提携誌の過去・現在・未来――女性ファッション誌における考察
富川淳子 (跡見学園女子大学)
2019年11月14日に跡見学園女子大学の富川淳子会員を報告者に迎え雑誌研究部会を開催した。海外提携誌の編集経験もある立場からの実務的、ビジネス的側面からの分析をベースに、出版社を変えながらも日本で提携誌が発行し続けられるのはなぜかという疑問を出発点に、その特徴などが報告された。
ライセンス提携誌の歴史として、アメリカ『VOGUE』がイギリスで展開するなどファッション誌では1913年から提携が行われていたことを確認した。次に日本でフランス『ELLE』の提携誌として1970年に創刊された『an・an ELLE JAPON』の創刊初期の誌面などを紹介しつつ、その提携のあり方を分析した。リフトと呼ばれる写真や記事の供給と広告が提携誌のメリットであり、『an・an ELLE JAPON』では、海外撮影が今より困難な時代に、写真が容易に入手でき、海外の「エスプリ」を雑誌に持ち込めること、そして当時ライセンスビジネスに関心があった平凡出版とライセンスビジネスを既に展開していたフランスELLE社との親和性も背景にあるとした。
ここから始まった女性誌における海外提携は本社の合併や契約形態の見直し、日本での版元変更などが随時行われてきた。部数も減少していく中、提携誌がなくならない要因を探ると、ライセンスビジネスと広告がある。ライセンスビジネスは、アパレルや雑貨メーカーとライセンス会社および本社との間にライセンス契約があり、洋服やタオルなどに雑誌のロゴ付きの商品が展開されるために、雑誌の発行が契約の条件になっている場合もある。広告については、『ELLE JAPON』や『Harper’s BAZAAR』は公表部数十万部以下でも大手ブランドの広告が掲載されているが、それは提携誌であるため、グローバルブランドの本社が著名な雑誌に振り分ける広告があるからである。
提携先出版社のビジネス的メリットとしては、①雑誌ブランドの力でインターナショナルの広告を獲得しやすい。②世界的に雑誌の知名度があるため海外での取材アポがとりやすい。③本国版、他国版の提携誌から記事のリフトができるという三点があげられた。
一方、提携誌のデメリットとしては、①本社に対しての支払いや利益配分が生じる。例えば、提携契約の場合、提携契約料や広告売上マージンなどの支払いが発生する。②本国の文化や価値観をおしつけてくる。③本社が他の企業とライセンシー契約を結んだときに、日本でのブランドイメージを守ることが難しくなるケースがある、という三点が指摘された。
報告の後、フロアを交えて議論を行い、報告では女性ファッション誌に限定されていたことをうけて、男性ファッション誌などにおけるライセンス提携との違いや、ライセンス元との関係性・編集権のあり方などについての質疑応答、議論が行われた。
なお、参加者は、会員・非会員計16名であった。
会場: 日本大学法学部三崎町キャンパス 10号館1031講堂