雑誌メディアからたどるライトノベルの誕生・発展の軌跡
山中智省 (会員、目白大学)
9月27日に開催された雑誌研究部会は、山中氏による報告を中心に、ライトノベルの誕生・発展に寄与してきた雑誌メディアをめぐる議論が行われた。まず山中氏から、複合的・多角的現象であるライトノベルへの理解を深めるために、これまで着目される機会が少なかったライトノベル雑誌を対象とする研究の必要性が主張された。その上で、1988年に富士見書房から創刊されたライトノベル雑誌『ドラゴンマガジン』に焦点を当て、当時の資料や創刊時の編集者や作家に対するインタビューからの研究の進展が報告されるとともに、創刊前後を中心に同誌の特徴や編集方針についての分析がなされた。創刊時は、新人賞や文庫と連動し、小説だけでなくマンガやイラストなども含めて、雑誌が創作のコンセプトやイメージを提供する場であり、メディアミックスのための戦略誌という特徴を持っていた。「ビジュアル・エンターテイメント」という語に象徴されるが、編集者らは若い世代に小説の面白さを知ってもらうことを目指し、アニメ誌のようにカラーページや特集記事で興味を喚起し、小説へと至る流れを練っていた。また、同時期に富士見書房と競合関係にあった朝日ソノラマの編集者へのインタビューなどから、『ドラゴンマガジン』に留まらず多角的視点から当時の若者向け小説出版を分析した。さらに、雑誌メディアからのライトノベル研究が持つ可能性については、若年層の読者を獲得することを企図した「出版メディアとしてのライトノベル」という視点から、ライトノベルと既存の「文学」との連続性と非連続性を認識することで、メディア研究や文学研究を現代的課題へと発展させる契機となるとした。
山中氏による報告の後、フロアを交えて議論を行った。雑誌のみならず、当時の小説や現在のライトノベルとの関連性など、幅広い観点へと開かれた議論が行われた。なお、参加者は、会員・非会員計16名であった。
日時: 2018年9月27日(木) 午後6時30分~8時50分
会場: 日本大学法学部10号館1063教室
(文責:玉川博章)