ボーイズラブ雑誌の現在――インタビュー調査を中心に
中川裕美
(愛知教育大学 非常勤講師)
1990年頃より登場したボーイズラブ(以下BL)雑誌は,男性同士の恋愛を描くもので,主に女性をターゲットに数多くの雑誌が刊行されている。本発表では,第一に,新聞や一般雑誌という「外側の目」において,BL及びBL読者がどのように語られてきたのかを明らかにし,第二に,BL雑誌に携わる編集者と作家へのインタビューを試み,BLの送り手・描き手が「内側の目」で見るBL出版の現状,及びBLの受容を明らかにする。
新聞や一般雑誌の記事では,BLという「男には分からないジャンル」が誕生し,それを「腐女子」と呼ばれる女性たちが妄想しながら楽しんでいることが語られている。また,彼女たちが何故男同士の恋愛物語を愛読するのか,という点については,(1)男女の恋愛の代替手段としてBLを楽しんでいる,(2)日常生活におけるジェンダー(抑圧)からの解放としてBLを楽しんでいる,という二つの説が紹介されている。特に後者の説は登場後一貫して挙げられており,BL読者の受容を読み解く定説となっている。
BL雑誌の編集者,作家へのインタビューでは,BLの読者は20代後半から30代後半の女性が大半であり,アンハッピーな展開や波瀾万丈な物語は好まない傾向にある,とのことであった。また,読者は「可愛い男の子二人が戯れているのをただ眺めていたい」と考え,女性の登場しないBLは「他人事」であるが故に「癒し」となっているのではないか,と示唆された。
記事とインタビューで明らかに異なる結果となったのは,「読者はBLをどう受容しているのか」という問題である。確かに,BLには男同士の恋愛が描かれており,読者が「男性」目線で作品を読み進められるという特徴があるのは事実だろう。
しかしながら,一大ジャンルに成長したBLの読み手の全員が,男女間の鬱屈を抱えているとは考え難い。また,BLが生まれて既に40年以上が経過し,BLを取り巻く社会的・文化的背景や出版状況も大きく変化している。すなわち,親に隠れて少年愛漫画を読んでいた年代と,一般の書店に公然とBLコーナーが設置されている年代とでは,BLというジャンルへの接し方,考え方も一元的には捉えられないと考える。さらには女性の社会的位置づけの変化も重要であろう。
今回の分析・調査によって明らかとなった課題,「BLの読者,受容動機」については,今後も更なる検討を続けて行きたい。
(文責:中川裕美)