雑誌の図書館 大宅壮一文庫の小学生対象の雑誌教育の実践報告
土屋潤子 (大宅壮一文庫)
「探究学習などにおける教材としての利活用」と、雑誌を制作する「雑誌編集教育」を中心に研究活動をしているMIE(雑誌利活用教育)研究部会では、2019年から雑誌作り教育の実例報告を継続的に開催してきた。第4回目となる研究部会では、雑誌に親しむ機会のなくなった現在の子どもたちに雑誌の存在意義を伝え、一緒に雑誌文化の未来を作っていくことを目指してMIE活動を推進している大宅壮一文庫の実践例を取り上げた。これまでは大学や中学の授業で実践している報告に限られていたが、今回は教育の現場から離れて試みられた初めての実践例報告となる。
大宅壮一文庫は雑誌図書館としてこれまでにも教育現場との関わりを多く持ってきた。そして「MIE」の概念に出会ったことで、改めて若い世代へ雑誌文化の魅力と雑誌アーカイブの意義を伝える雑誌教育を志すようになっている。今回の報告者は大宅壮一文庫でMIE活動を担当し、雑誌『コロナのコロ』作りを指導した土屋潤子氏である。
コロナ禍で休校中、自宅で一人になるのを避けるため、職員の子である小学校高学年の2人の女子が大宅文庫で日中の時間を過ごしていた。その彼女たちを対象に土屋氏はまず、3回分のテーマを立て、雑誌についての授業を試みた。1回目のテーマは「雑誌とは何か」とし、雑誌の特徴を考え、雑誌への理解を深めることを目的とした。『AERA』や『ナショナル・ジオ・グラフィック』『ニコプチ』など10誌めくりながら、「どんな人が読むのか」「自分で読んでみたいか」「どんな特徴があるか」などを思いつくままに2人の小学生に語らせた。2回目のテーマ「雑誌というメディア」では雑誌にどんな記事が載っているかを見比べ、今日のメディアの中での雑誌が売れなくなっている理由を小学生なりに考えてもらう機会とした。3回目の「昔の雑誌記事を読む」では30年以上の前の人気アイドルの記事や人気のおもちゃの記事を見ることを通じて雑誌アーカイブの意義を感じ取らせることを試みた。これらの授業を通して土屋氏は、小学生でも雑誌の授業は成立し、様々な学習ができると実感し、中高生を対象にした場合にはさらに内容を深く掘り下げて充実したものになるだろうと雑誌教育への手応えを感じたという。
その後、2人の小学生と一緒にコロナをテーマにした雑誌『コロナのコロ』の制作にとりかかった。内容は「コロナへの自分たちの思い」という文章と、他の子どもたちへのコロナについての4つのテーマのアンケート、「未来の子どもたちへ伝えたい」をタイトルとした文章。自分の気持ちを文章にしたり、他の子どもたちの意見をまとめたりすることを通して小学生は多くの学びを得たことを土屋氏は報告した。
『コロナのコロ』は第1号を大宅壮一文庫館内や付近の小学校に配布したところ大きな反響があり、2つの大きなメディアでの取材を受けた。マスコミ関係者や様々な年代・職業の方が来館する雑誌図書館は『コロナのコロ』に興味をもつ読者に恵まれていること、小学生による発信の希少性、「コロナ禍の子どもたちの本音」への社会的な関心などが注目された背景にあるだろうと分析する。
この反響が第2号の制作の動機づけとなったという。第2号ではアンケートの回答人数も増え、子どもたちだけでなく母親の気持ちも聞き、掲載した。子どもたちから寄せられた回答には、普段口に出せない不満や本音が書かれ、マンガや詩などに表現された作品もあった。
最後に土屋氏は今後も『コロナのコロ』の制作活動を続けるとともに、子どもたちが誰でも自分の考えや興味のあることを自由に安心して発信することができるような場を模索しつつ作りたい。学校の外にある雑誌図書館としての長所を活かした活動をしていきたい。また、学校現場の先生方とも協働して、雑誌や雑誌記事を使った教育活動を提案し、未知の可能性を秘めた雑誌教育を展開していきたいとMIE活動への意欲を述べた。
日 時: 2020年12月3日(木) 午後6時30分~8時 (Zoomによるオンライン開催)
参加者: 22名(会員11名、非会員11名)
(文責:富川淳子)