■ 日本出版学会 第7回出版アクセシビリティ研究部会 開催報告 (2022年2月24日開催)
【第1部:報告】
「学術情報・コミュニケーションのアクセシビリティをめぐる現状:学協会を対象とした調査から」
西田奈央(専修大学)
【第2部:パネルディスカッション】
「学術情報・コミュニケーションのアクセシビリティのこれからを考える」
植村八潮(専修大学)
野口武悟(専修大学)
植村 要(鶴見大学)
第7回例会は、「学術情報・コミュニケーションのアクセシビリティ」のテーマのもと、オンライン会議ツールを用いて、2022年2月24日(木)の18時30分から20時まで、2部構成で開催された。事前申し込みは49名であった。以下、概要である。
【第1部:報告】
第1部は、西田奈央氏(専修大学)による「学術情報・コミュニケーションのアクセシビリティをめぐる現状:学協会を対象とした調査から」と題する報告である。報告の概要は、以下のとおりである。
障害者差別解消法や読書バリアフリー法の整備を受け、「日本学術会議」の協力学術研究団体においても、情報アクセスの保障がこれまで以上に求められる。大学院における障害学生の人数が増加していることから、学協会における障害のある研究者の人数も増えていることが推測される。こうした現状認識に基づいて、学協会活動として行なわれる研究大会等における情報保障、学協会誌のアクセシビリティ、学協会ウェブサイトのアクセシビリティの3分野に関して、各学協会の実施状況を明らかにするため、二つの調査を実施した。
一つ目の調査は、日本学術会議協力学術研究団体のWebサイトの協力学術研究団体一覧に記載されている2,087団体のうち、メールアドレス又は問い合わせフォーム等の連絡先が確認できる1,958団体に対して、質問紙調査を実施したものである。回答数は315団体、回収率は16%だった。主立った調査結果として、まずアクセシビリティに関するガイドラインの有無については、「ない」が309団体(98%)だった。研究大会の情報保障については、研究大会を開催している313団体のうち、情報保障を「全くしたことがない」が285団体(91%)だった。学協会誌のアクセシビリティについては、紙媒体で発行している269団体のうち、アクセシビリティ対応を「全くしたことがない」が248団体(92%)だった。ウェブサイトのアクセシビリティについては、「特に何もしていない」が295団体(94%)だった。このように、学協会のアクセシビリティ対応は、まだ一部の団体での取り組みに留まっていることがわかった。
二つ目の調査は、情報保障に関する取り組みが進んでいる日本女性学会、日本社会福祉学会、日本分子生物学会、障害学会に対して、ヒアリング調査を実施したものである。主立ったものとして、まず研究大会における情報保障については、聴覚障害者に対する手話通訳や要約筆記、視覚障害者に対する拡大コピーした資料の配布、参加申込案内に情報保障に対する要望を受け付けている旨の記載などが行なわれていた。一方、報告者に対しては、学協会として研究発表に関する指針を出すなどが行なわれていた。学協会誌のアクセシビリティについては、EYEマークの表示や、テキストファイルでの配布が行なわれていた。ウェブサイトのアクセシビリティについては、ウェブサイトのリニューアルの際にアクセシビリティ対応を行うなどが行なわれていた。
そして、学協会にアクセシビリティ対応を広めていくためには、会員のニーズを把握する体制づくりや、アクセシビリティに関する方針の発信によって意識を変えていくことが必要だと結ばれた。
【第2部:パネルディスカッション】
第2部は、「学術情報・コミュニケーションのアクセシビリティのこれからを考える」と題して、植村八潮会員(専修大学)の司会のもと、野口武悟会員(専修大学)、植村要会員(鶴見大学)のコメントと参加者を含めた熱のこもった議論が行なわれた。
参加者からは、9割の学協会がアクセシビリティ対応をしていないことに対する驚きの一方で、アクセシビリティ対応をしている学協会の会員からは、アクセシビリティ対応することが当たり前だと思っていたという学協会による違いが紹介された。その他、学協会にアクセシビリティ対応を求めると予算を理由に断られること、調達における工夫、大学における障害学生支援から学協会への接続、等、様々な観点から活発な議論が行なわれた。
なお、本研究会では、第1部において画面共有した報告資料および読み上げ原稿を本学会HPから提供し、また、第2部における発言のUDトークによる文字通訳を試みた。
事前申し込み者:49名(会員17名、一般32名)
会場:zoom
(文責:植村要)