マラケシュ条約批准と著作権法改正、そして真の読書バリアフリーを目指して
宇野和博 (筑波大学附属視覚特別支援学校教諭)
第4回例会は、筑波大学附属視覚特別支援学校の宇野和博氏を発表者として、2018年10月1日(月)の18時半より開催された。今回は、当事者でもある宇野氏から、マラケシュ条約や改正著作権法が読書に困難のある障害者(以下、読書障害者)の読書環境整備にとってどのような意義をもつのか、読書バリアフリーの実現に向けての残された課題は何かについて発表いただいた。以下、宇野氏の発表概要である。
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2018年4月25日、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者の発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」(以下、マラケシュ条約)の締結が参議院本会議において全会一致で承認された。そして、10月1日(本発表の当日)に、外務省はマラケシュ条約の加入書を世界知的所有権機関(WIPO)の事務局長に寄託し、2019年1月1日から国内発効することとなった。マラケシュ条約が発効されると、条約締結国間で、「利用しやすい様式の複製物」(各国の著作権法による権利制限規定で読書障害者のために複製された録音資料など)が国境を越えて交換できるようになる。
5月18日には、マラケシュ条約批准に向けての国内法整備として改正著作権法が成立した。この改正著作権法も2019年1月1日に施行となる。今回の改正によって、第37条第3項の対象者に寝たきりの人と上肢障害者を新たに規定し、また、第37条第3項により複製された音声やテキストなどのデータを対象者に公衆送信(メールによる送信)によって提供することができるようになる。さらに、第37条第3項による複製をボランティア団体なども行なえるようになる。
マラケシュ条約の背景にあるのは「本の飢餓」(読書の飢餓)である。読書障害者が読める本の割合は、先進国でも7%、開発途上国にあっては1%未満といわれている。こうした状況は、もちろん日本においても変わらない。読書障害者の読書環境を充実させていくためには、マラケシュ条約批准とともに、さらなる立法措置(「読書バリアフリー法」制定)が必要である。
4月11日には、「読書バリアフリー法」制定に向けて、超党派の国会議員による「障害児者の情報コミュニケーション推進に関する議員連盟」が設立された。7月17日には、参議院議員会館において、障害関係4団体主催による「読書バリアフリー法」制定を求める集会も開かれた。「読書バリアフリー法」制定によって推進したい事項は、大きく「本を「買う自由」の確立」と「本を「借りる権利」の確立」の2つである。具体的には、前者については出版社によるアクセシブルな電子書籍の販売の促進など、後者については国立国会図書館を核としたネットワークの拡充や、各図書館の施設・設備のバリアフリー化、障害者用資料の充実、読書支援体制の確立などである。
こうした動きは、出版界にだけ負担を求めようとするものではない。これからの共生社会にあって、当事者にも出版界にもWin-Winとなる関係をどう確立するかが重要である。
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宇野氏の発表後、参加者をまじえての活発な質疑応答が行われた。第5回例会は、2019年春ごろの開催を予定している。
参加者:30名(会員6名、一般24名)
会 場:専修大学大学院法学研究科(神田キャンパス7号館)731教室
(文責:野口武悟)