デジタル雑誌における「書誌情報標準化」の最新事情
丸山夢人・小野寺尚希
出版技術・デジタル研究部会は,7月23日に雑誌研究部会,並びに印刷教育研究会との共催で,水道橋・都立工芸高校にて「デジタル雑誌における書誌情報」をテーマとした研究部会を開催。丸山夢人氏(集英社)と小野寺尚希氏(毎日新聞社)が報告を行った。
一般社団法人日本雑誌協会では,一般向け雑誌コンテンツの円滑な流通を目的にした「デジタル雑誌の流通用交換フォーマット(PAMP)」を,雑誌業界の国際的な標準化団体である「IDEAlliance」と共同で2012年に策定した。丸山氏,小野寺氏はこの策定作業にあたった中心メンバーである。
まず小野寺氏が,「新聞と雑誌のデジタルビジネスの現状と課題」についての報告を行った。最初に「新聞のデジタルメディア利用の歴史」として,1980年代の記事データベースサービスや新幹線車内への電光掲示板へのニュース配信からはじまり,インターネットの普及に伴い広告収入獲得のためにWebメディアへ進出していった経緯,新聞社独自の有料コンテンツ配信,紙と電子のハイブリッド販売等といったビジネス展開の流れを解説。
その上で,現在の新たな課題として,コンテンツを無償で提供し広告収入をベースにするWebサイトと,課金型デジタルコンテンツのバランスをどのようにとっていくべきか,独自のデジタルコンテンツを制作することによって増大する必要経費をどのように削減し作業を効率化していくか,という点を挙げた。
そして,デジタルビジネスが拡大していく中で,新聞業界においては早い時期から写真や記事等の素材管理の重要性が認識され,デジタル化への対応が始められていたが,雑誌の場合は作業工程の複雑さ等が理由で,コンテンツ管理が遅れ気味であると指摘。それが新聞に比べて雑誌の電子化が遅れている大きな要因になっていると主張した。新聞業界と雑誌業界の双方の製作工程,ビジネスモデルに精通する小野寺氏ならではの問題提起であろう。
次に丸山氏が,日本雑誌協会が策定したPAMPの狙いと今後の方向性に関する報告を行った。PAMPを策定した目的としては,「書誌作成関連の作業を軽減し,既存ビジネスへの参入コストを下げること」「デジタルメディアに即したストック型ビジネスには検索エンジン対策が必須であり,それには充実したメタデータの存在が重要であること」「雑誌を〈記事単位〉で管理することにより,ストックとしての有用性を高め,さらなるビジネス拡充につとめる必要が有ること」を挙げた。
そして,PAMPの普及にあたっては,3段階の実装モデルを想定しているとし,「第一段階=雑誌(巻・号)単位の書誌+コンテンツデータ(PDF)」「第二段階=雑誌単位の書誌+記事単位の書誌+コンテンツデータ」「第三段階=雑誌単位の書誌+記事単位の書誌+HTML5で直接記述したコンテンツデータ」というロードマップを提示した。
PAMP自体が実際のサービス,ビジネス上で運用されている事例はないが,丸山氏が勤める集英社では,2013年5月からファッション雑誌11誌でデジタル雑誌配信サービスをスタートさせ,今後書誌情報作成・管理にPAMPを使用する予定と説明。今後はこれらを実際のサービス提供事業者や他の出版社にどのように普及させていくかが重要だとした。
さらに丸山氏は,デジタル雑誌の次のビジネスモデル展開として,「あるテーマごとに記事を再編集(リパッケージ)したコンテンツの販売」や「マイクロコンテンツを扱う小額/定額課金モデル」「記事のメタデータと閲読者情報をもとにしたマーケティング・広告モデル」等を提示。これらを円滑に実現するためには,第二・第三段階のPAMPが実装されていくことが必要であると主張した。
デジタル雑誌ビジネスの将来像と,それに伴うコンテンツ管理,メタデータの存在が重要であることを意識づけられる発表であった。
(文責:梶原治樹)