■ デジタル出版部会 発表要旨 (2003年3月25日)
出版社はコンテンツビジネスで生き残れるか?
デジタル出版部会は3月25日,東京・神田錦町の東京電機大学で「出版社はコンテンツビジネスで生き残れるか」をテーマに電子辞書に焦点を当てた例会を開いた.(株)三省堂の荒井信之取締役,(株)大修館書店の青木三郎販売部長が各社の電子辞書への取り組みについて発表し,その後(株)文化通信社の星野渉氏を司会に,大修館書店の番沢仁識氏と大学生協東京事業連合の流田克己氏を加えてパネルディスカッションを行った.以下にその概要を紹介する.
やはり強い定番辞書
荒井氏によれば,三省堂では辞書の展開として,インターネット上の自社サイトや検索サイトへのコンテンツ提供,電子辞書メーカーへの提供の両方を行っている.電子辞書は,語数や例文を絞った精選型から,辞書1冊を丸ごと収録したフルコンテンツ型へと変化してきた.現在の出荷数を見たとき,電子辞書は年間320~400万台,一方紙の辞書は1000~1200万冊だが,電子辞書には1機種に複数の辞書が搭載されていることから,販売部数で電子コンテンツが紙の辞書に迫っている.また,すでに市場面では紙の辞書が年間250億円に対し,電子辞書市場は420億円と言われている.
青木氏によれば,ハードメーカーとは争わず,あくまでコンテンツの提供に徹することが大修館書店の方針である.ハードの開発や製造はメーカーに任せ,売らんがためのコンテンツの安売りはしない.メーカーは紙媒体で定評のある辞書を求める傾向があり,そのような定番の辞書を持つことで,出版社はメーカーに対して主導権を握ることができる.
主導権を出版社に
パネルディスカッションでは流田氏が,大学生協ではフルコンテンツ型が登場してから,とくに文系の英文科の学生を中心に売れ行きが伸びてきた.また今春に医学系のコンテンツが登場し,辞書自体の価格は他の倍近く高いが,待ち望んでいた分野でもあり期待できる.今後も大学の需要にあったコンテンツを扱っていくと述べた.荒井氏もフルコンテンツ型になってから購入者は紙と電子のどちらかを選択しているようだといい,とくに大型の辞書にその傾向が顕著で,紙の方は明らかに減っており,紙と電子辞書の共存は疑問であると述べた.また特定の定番コンテンツへの一極化は起こっているが,今後は固定的なものではなく,様々なコンテンツが用意され,使用者が使うものを選ぶ方向にいくだろうと語った.
青木氏は辞書のもたらす利益について,電子辞書のロイヤリティよりも紙の方が利益率が高く,紙が売れなければコンテンツを提供できないという危機感もあると語った.番沢氏は,紙の辞書を作れば電子辞書のデータも同時にできているという印象があるが,データをメーカーに渡すさい,XMLデータに変換して納品するのが一般的であり,また活版ベースのものはテキストから起こす必要があるなど,どちらも掛かる費用や労力は無視できない.しかし今後,電子辞書がSDカードやメモリースティックに入り,差し替え可能な時代がくれば,出版社がカード形式で電子辞書を出版し,利用者が必要なものを選んで購入することが可能となる.これは主導権を出版社がメーカーから取り戻すことにもつながると述べた.
(文責:上田 宙)