デジタル出版部会 発表要旨 (2002年9月24日)
デジタル印刷/電子出版の標準化動向
デジタル出版部会では,9月24日,「デジタル印刷/電子出版の標準化動向」と題してパネルディスカッションを行った.29名(うち会員15名)の参加を得て活発な質疑応答も行われ,関心の深さを窺わせた.
このパネルディスカッションは,日本印刷産業連合会内の『デジタル印刷用語の標準化に関する調査研究委員会』(委員長:高橋恭介東海大学名誉教授)が検討を進めてきたデジタル印刷関連用語のJIS原案を,同連合会のサイトで公開レビューをするのにあわせて計画されたものである.この委員会には出版学会から4名の会員が参加している.
出版技術はコンピュータを利用する環境になって大きく変貌を遂げ,本の概念まで変えるほどになった.その結果,異業界の参入や誤解などによって同じことの新しい言葉での置き換えが自然発生的に出てきたり,好ましくない造語がなされるなど,混乱を生じることにもなった.
こうした状況を放置すれば,正確な情報交換にも支障をきたすことにつながる.そういうこともあって,この数年の間に各種の用語標準が誕生している.たとえば,JIS Z 8123:1995「印刷用語-基本用語」,JIS Z 8124:2000「印刷用語-取引関連」,TR X 0003:1996「フォント関連用語」,TR X 0034:2000「電子出版関連用語」などである.今回のJIS原案は,このうちのTR 2件を中心に再整理して規格化しようとするものである.
当日は,まずこの原案の簡単な枠組みと審議過程で問題となった事柄などが紹介され,その後,デジタル印刷/電子出版を取り巻く環境の変化,原案のスコープ,用語のユレの実態等についての解説がなされた.
用語表記のユレに関しては,原案委員会で問題にされた“デジタルかディジタルか”を,この場でも取り上げた.現在のJIS規格では“ディジタル”を採用しており,高校の教科に取り入れられた「情報」においても,学習指導要領ではディジタルと教えることになった.しかし,いったん日常生活の場に出ると圧倒的にデジタルという表記が多い.公共放送をはじめ,全国紙から地方紙に至るまで,この表記を採用しているところがほとんどだからである.出版・印刷業界でも“デジタル”が一般的なようである.
用語規格の場合,いくら高邁な理論に基づいて決めても,それに従わないほうが圧倒的に多ければ,その規格そのものの存在価値はないに等しい.正統的かどうかは重要なファクターには違いないが,用語規格の唯我独尊は一つのメリットも生まない.ちなみに今回の原案では“デジタル”を採ることとした.
パネルディスカッション後の質疑応答においても,たとえば校正用語の“並字”を採るかどうかなど,多岐にわたる指摘・意見が聞かれたことは,実用的な用語規格を作る上で,たいへん貴重であった.現在,この部会で受けた指摘をベースに内容の見直しをしつつあり,本年度中に経済産業省の審査を受ける予定である.
(文責・植村八潮)