ケータイ小説ブーム分析に見る出版構造の変化
――郊外化と若者の地元志向
2月25日にデジタル出版研究部会では,出版経営研究部会との共催で,第2回の部会を開催した(東京電機大学)。
報告者は,昨年『ケータイ小説的。“再ヤンキー化”時代の少女たち』(原書房)を執筆した速水健朗氏であり,演題は「ケータイ小説ブーム分析に見る出版構造の変化郊外化と若者の地元志向」である。
一昨年からのケータイ小説ブームは,ブームに対する嫌悪感を内包しつつ「売れるから参入する」式の書籍化ブームやドラマ・映画化ブームを引き起こしてきた。
さらに文芸や社会論,デジタルメディアなどの視点からケータイ小説を論じた新書が多く刊行され,いわばケータイ小説論ブームという“落とし子”も生んでいる。
ケータイディスプレイに最適化された表現や,若者のコミュニケーションの反映として小説文体をとらえる試みなど,このとらえどころのないデジタルナラティブに対し,さまざまな分析が行われている。
一方,コアなファンから周辺に向かって広がるのを“ブーム”と呼ぶなら,一般化した頃には中心においてかげりが見えるもので,ケータイ小説ブームも例外ではない。むしろ,ブームが踊り場になった今だからこそ,客観的に分析する材料がそろったともいえるだろう。
速水氏の『ケータイ小説的。“再ヤンキー化”時代の少女たち』は,“ケータイ小説論”というよりもサブタイトルにあるように若者文化や生態の分析に力点が置かれており,その背景として書店の郊外化が取り上げられている。出版産業分析に通じるものがあり,他のケータイ小説論と一線を画すといえよう。
そこで「ケータイ小説以外の書籍も含めた,書店の郊外化がもたらしたベストセラーの変化,また他のコンテンツ・文化産業における郊外化と出版業界の比較」などについて報告いただいた。ケータイ小説に代表される新たなメディアが,今後どのような展開を遂げるのか。パラレルに進む出版構造の変化と,互いに強く影響していくことは間違いない。その複雑に入り組んだ関係を解きほぐす機会になったかと思う。
講師を含め40名の参加者により活発な質疑が行われた。
(文責:植村八潮)