中川裕美 (愛知教育大学 非常勤講師)
作家インタビュー
2015年8月、9月の2回に渡り、筆者は作家にインタビューを試み、作家にとってのBL、読者像について訊ねた。匿名を希望されたため、ここではB氏とする。
B氏(女性)はこれまでにBL作品の連載を複数回担当したほか、単著のコミックも発行している。またBL作品以外に、成人漫画や少女漫画作品も描いている。
前回インタビューした編集者のA氏によれば、BL作家は同人誌即売会をきっかけとして商業雑誌デビューする人が多い。同人誌即売会やpixiv(http://www.pixiv.net/)(注1)などですでに人気の出ている作家に対し、編集者が自社雑誌での連載や、単行本化を打診するのが多いのだという。すなわち、従来の漫画雑誌のように「投稿作品による新人の発掘や編集者の手による育成」という機能は、現在のBL雑誌においてはほとんど果たしていないという。実際B氏も同人誌即売会で編集者にスカウトされたことがきっかけで商業雑誌デビューを果たしている。
作家にとってのBL
B氏にとって、BLの位置づけは「少年、青年漫画が一番上にあり、その次が少女漫画やお洒落系漫画であるとすると、BLは一番下」であるという。
その理由の第一は、他の漫画ジャンルに比べ、作画や物語展開が拙いと感じること。第二は、プロとアマチュアの差が少ないこと。第三は、他のジャンルに比べ原稿料が格段に低く設定されていること、であるとする。
特に原稿料の低さは際立っており、単行本の版を重ねるほどの人気作家であっても、原稿料は据え置きのままであることも珍しくはないという。
B氏も「漫画だけでは生活出来ないため他の仕事もしている」という。しかし、「よい作品が出来た時や読者が喜んでくれた時は嬉しいし、それがあるから続けていられる。やっぱり私は漫画が好きだから」とのことだった。
BL作品における作家と「読者」の関係
同人誌作家(アマチュア)から商業誌作家(プロ)に転身しても、同人誌活動を続ける作家も多く、B氏もまた同様であるとのことだった。同人誌活動は、読者と直接対面でコミュニケーションがとれるため、例えプロになったとしても読者との関係はほとんど変わらないままであるという。
B氏は自身と読者との関係を、「読者が体育座りをしている人とすれば、私は立っている人。舞台上と観客席というほどの違いもない。これが少年漫画などだと、ヘリコプターと地上ほどの違いがあると思う」と表現した。
同人誌作品の読者から見た作家については、「同人誌作品を購入する層は、その作家がプロであるかアマチュアであるかは関係がない。作品にエロがあるかないか、ということの方が重要だと考えていると思う」とのことであった。
商業誌作品の読者アンケート結果については、「BLという特殊なジャンルにおいては、アンケートに回答するのは一部のコアな読者に偏っている印象があり、あまり参考にならないと考えている」。一方、「商業誌掲載作品について同人誌即売会などで直接感想を貰えた場合は、単純に嬉しいという動機から、キャラクターの登場回数を増やすくらいのことはするだろう」とも述べた。
また、「眠る前にちょっとエッチなマンガを読む」ことを習慣にしている読者は多く、「男同士のセックスを描いた作品だけでなく、男女のセックスを描いた作品も同様に人気がある」とのことだった。何故眠る前に読むのかと訊ねたところ、「仕事や育児で忙しい女性が自由になれる時間は、眠る前くらいしかないからではないか」。また「そういった女性にとって、スマートフォンなどで電子マンガを読めるのが、とても便利なのだろう」ということであった。
最後に、B氏に男性同士の恋愛をどう捉えているかについて訊ねた。
B氏は「BLは癒し。何故なら他人事だから」と言い、男性同士の疑似結婚や子育てがテーマになったBL作品を例にあげた。「現実では、女性には女性の性役割が求められ、煩わしいことも多い。しかしBL作品の中には男性しかおらず、読んでいてストレスを感じることがない。例えキャラクターが(疑似)結婚や子育てについて悩み苦しんでいても、あくまでも苦しんでいるのは『男性』であり、『私』ではない」。
さらに、B氏自身は描き手としても読み手としても、「BLの受け・攻め(注2)のどちらにも共感することはない。二人が居る部屋の壁になって、二人を見ていたいだけ」であるという。BLは現実を逃避出来るものであり、少女漫画のような、恋愛におけるドキドキハラハラを追体験しながら楽しむものではない、とのことだった。
(つづく)
注
(1)ピクシブ株式会社が運営するソーシャルネットワーキングサービスのこと。イラストや漫画、小説の投稿が可能で、創作におけるコミュニケーションツールとして利用されている。
(2)ボーイズラブ作品では、性愛行為において女性役割をする男性を「受け」、男性役割をする男性を「攻め」と呼ぶ。