■ 日本出版学会 関西部会(通算111回)/
日本図書館研究会情報組織化研究グループ2024年1月月例研究会
開催報告(2024年1月20日開催)
「電子ジャーナルとリンクリゾルバの普及期の省察」
報告者:増田豊(ユサコ株式会社プロダクト開発担当部長)
リンクリゾルバは、サイニー(CiNii Research)などの論文情報データベースに設定されるICTツールで、利用者に本文やプリント版の所蔵をナビゲートする。販売開始から20年以上が経過し、日本では主にClarivate社のSFXと360Link、EBSCO社のFTFの3ブランドがシェアを占めている。学術機関における電子ジャーナルの普及にあわせて、リンクリゾルバは電子資料の検索・閲覧に不可欠なツールとして定着している。
講演者の増田豊氏は、日本におけるSFXの販売総代理店ユサコに勤務し、SFXの日本への導入から普及までずっと取り組んできた。本会では、増田氏がリンクリゾルバの設計思想、代理店の役割、日本市場での取り組みについて語り、その後、リンクリゾルバの定着によりどのような学術コミュニケーションの変容があったかを考えた。
増田氏は、まず入社した1985年から現在までの約40年にわたる電子学術出版の流れを振り返りながら、およそ10年単位に区切り、トレンドの推移を概観した。1990年代に登場した電子ジャーナルでは、同じ論文が複数のサービスで提供され異なるリンク先が存在することが多く、利用者に適切なリンク先を動的に提供するサービスが求められた。このリンク先を適切コピーといい、アルゴリズムにより利用者にとって適切なリンク先を電子ジャーナルの書誌情報から瞬時に生成し提示する仕組みが生まれた。SFXは、図書館情報学の研究者バン・デ・ソンペル(Herbert Van de Sompel)が考案した状況判断型(Context Sensitive )リンクの仕組みで、Ex Libris 社が製品化した。さらに、バン・デ・ソンペルは同社のオレン(Oren Beit Arie)と、ベンダーを超えて文献情報をコード化し送信するための統一規格OpenURLを提案した。OpenURLは米国情報標準化機構(NISO)の規格となった。ここで増田氏は、リンクリゾルバが普及したのは、OpenURLがグーグルも含め多くのベンダーに採用され業界統一の規格として認識されたためと、標準化の重要性を説明した。
次に増田氏は、代理店が果たした役割として、啓蒙・普及・販売の営業活動、技術サポートのほかに、日本市場にあわせSFXをローカライズした点を強調した。日本向けに行ったこととして、インターフェイスの日本語対応、電子ジャーナルの書誌(ナレッジベース)に日本の雑誌情報を追加したこと、国内ベンダーにOpenURLに準拠するように勧誘したこと、日本市場向けの価格を設定したこと、Ex Libris社のクラウドサービスが始まる以前にユサコで独自にホスティングをしたことなどを挙げた。
また、代理店の立場から、リンクリゾルバを電子情報資源の管理ツールとして機能拡張させることを提案し、COUNTER準拠の利用実績レポートを自動収集するツール(USTAT)の製品化となったと述べた。
講演後、司会の中村健会員が増田氏の講演をもとに、リンクリゾルバの普及/定着は、次の点で学術コミュニケーションの変容をもたらしたとまとめた。
1. 所蔵情報の提供方法の変化:
これまで、図書館は蔵書目録を用途に応じて、冊子体、カード、CD-ROM、OPAC、など都度、メディアを変えて提供してきた。しかし、リンクリゾルバは、電子ジャーナルの書誌をICTを活用し、瞬時に用途に応じて提供する。
2. 市場の変化:
ハード系の電機メーカーが中心であった図書館システム市場に出版社系の代理店が新たに参入し、図書館システム市場におけるプレイヤーが融合した。
3. 文献を介した図書館と利用者の関係の変化:
リンクリゾルバが文献情報をICTツールで案内したことは、図書館のレファレンスの一部をIT化したともいえる。
4. ICTツールの日本語化:
電子資料の検索システムは海外製が多く、その呼称もAZリスト、リンクリゾルバ、ディスカバリサービスなど英語表記が多いが、リンクリゾルバのリンク先を提示するメニュー画面が「中間窓」という日本語で定着した点は注目する点である。
その後、参加者との質疑応答では、近年大きな潮流となっているオープンアクセス論文の判定に対するリンクリゾルバの対応や考え方についての質問や、図書館システムとリンクリゾルバのセット販売の可能性の質問が出た。この報告では前者のやり取りの意味についてふれたい。
増田氏はこの質問に対して、SFXがオープンアクセス誌の情報を把握するためのこれまでの取り組みを述べるとともに、論文の識別子(doi)の情報の中にオープンアクセスに関する情報が記載されると良いという願望を持っていたと述べた。この質疑応答から、図書館やベンダーがどのようにオープンアクセスを含めた学術情報を網羅的に把握し利用者に提供していくのかという課題が浮き彫りになった。
日 時:2024年1月20日(土)14時30分~16時00分
場 所:オンライン開催(Zoom)
参加者数:37名
主催:日本出版学会関西部会、日本図書館研究会情報組織化研究グループ
(文責:中村健)