■ 関西部会 発表要旨(2011年8月5日)
眺める文学――文学資料を魅せる活動
岡野裕行
図書館情報学の立場から文学館という施設そのものを研究対象とするアプローチは,2006年に発表した筆者の博士論文がもっとも早い事例である。そのときの研究の切り口は,日本全国の大小さまざまな文学館が有する出版機能の比較検討であり,その結果として,日本近代文学研究に対する文学館出版物の内容別の分類と,それらの活用の展望を示すことができた。
今回の発表では,そのような博士論文執筆当時の問題意識をさらに先に進め,「なぜ図書館情報学を学びながら,そのような文学館という研究視点を見出すに至ったのか」というような個人的な研究キーワードの変遷(図書館情報学,日本近代文学研究,書誌学,文学館)に簡単に触れ,その上で,特に博物館・図書館・文書館間の連携・協力のあり方を検討する「MLA連携」というキーワードと関連させながら,今日における文学館研究の位置づけと方向性を探っていった。
文学館研究では,博物館学,図書館情報学,アーカイブズ学の研究成果を活用することで,さまざまなテーマを見出すことができる。現在の個人的な問題意識をもとにしてみると,大きな視点では「文学資料の活用」を念頭に置きつつ,・文学者や文学資料の所在情報を探し出すこと,・文学館の歴史を図書館史の流れの一つに位置づけること,・地域資料の観点から文学資料の取り扱いについて論じること,・文学館という施設を離れた「文学散歩」というまちあるきの文化について考えること,・単に作品内容を読むだけではない「眺めるための文学」の必要性,などの研究視点を示すことができる。特に,博士論文で取り上げた日本近代文学研究者に対する文学館活動の視点だけではなく,一般の利用者が必要とする文学館の出版活動の機能を探ることも,今後の大きな検討課題になると考えられる。
全体のまとめとして,文学館には「文学者や文学作品にかかわっているあらゆる物語を可視化し提供する装置」という重要な機能があることを指摘した。さらにこのことを利用者視点に置き換え,そのように物語化された文学関連情報を「眺める」ことで,文学の世界を魅力的なものとして受け取るきっかけが得られるようになることにも言及した。
すなわち,そのような機能を実現するために,文学館は資料展示や出版活動などのさまざまなツールを用いることで,利用者に対して「いかに文学の世界を魅力的なものとして表現するか」を常に追求していくことが求められる。
(文責:岡野裕行)