日本の漫画を世界に――キンドル,iPadとコミック配信の現在  大橋大樹 (2010年9月1日)

■関西部会  発表要旨(2010年9月1日)

日本の漫画を世界に
――キンドル,iPadとコミック配信の現在

大橋大樹
(NTTソルマーレ代表取締役社長)

 

 NTTソルマーレは2002年4月に設立されたモバイルコンテンツ流通事業を行う会社である。
 ケータイビジネスの発展は3Gの浸透が大きく関係している。電気通信事業者協会の調べによればデータ通信に適する3Gの普及台数は2009年度に109万台,普及率は97%となっている。またドコモのiモード契約者のパケット定額比率は2005年3月末には6.1%に過ぎなかったが,2009年3月末には36.3%に達している。

 通信の歴史は狼煙や旗振り通信,そして19世紀から電信・電話と変遷し,20世紀からはブロードバンドとモバイルの時代が始まった。一方,書籍の歴史は百万塔陀羅尼から活版印刷を経て,DTP(デスクトップパブリッシング)へと進展した。そしてこの通信と書籍が合わさったものとして,電子書籍が誕生し,とりわけ2010年は「電子書籍元年」と言われているのである。
 ケータイコンテンツの流通市場は総務省の「2010年モバイルコンテンツの産業構造実態に関する調査結果」では2009年市場全体5500億円のうち音楽が1600億円,モバイルゲームが900億円,そして電子書籍が500億円となっており,電子書籍はコミックを中心に好調で今後,専用端末やiPadなど多様な端末の登場でさらなる伸長が期待されている。一方,紙の書籍市場は縮小しており,コミック市場ではコミック誌の売上低下が著しい。
 NTTソルマーレはすでにケータイ向けの電子コミックサイトとして「コミックシーモア」を運営し,3万タイトル,40万話を超える国内最大のタイトル数を誇り,2010年7月時点でドコモ61か月連続1位(106サイト中),auで186週連続1位(169サイト中)となっている。
 そして2010年8月より新たなサービスとして「よみっぱー」という読み放題の料金体系も導入し,価格のわかりやすさ,お得感,安心感を提供している。
 世界的なコミック人気により日本のコンテンツは「ジャパンクール」と呼ばれ,世界で通用している。インフラとしてのケータイは西欧・北米が日本より4~5年遅れ,他は8~9年遅れで3Gが普及すると予測される。
 NTTソルマーレは小学館,講談社,集英社,角川書店,新潮社等,あるいは米国,欧州,中国の出版社のコンテンツを仕入れ,デジタル化・翻訳・ライツ管理を行い,docomo,au,SoftBank,AppStore,kindleStore,OviStoreなどすべてのデバイスにチャンネルを拡大し,コミックシーモア,iPad,Amazonn,oviなどのサイトに提供していく事業を展開していているのである。
 発表の後の質疑応答では,iPadやKindle向けのコミック配信をいち早く開始したNTTソルマーレの戦略と具体的な制作についての質問などが相次ぎ,『いつもそばにいる』など自社で製作した作品の英語版に関する詳しい説明などが行われた。ケータイコミックの制作現場の話などはじつに興味深いものであった。
(文責:湯浅俊彦)