「板木は語る」 永井一彰(第2部:法蔵館 蔵の板木の見学会)(2010 年3 月30 日)

関西部会 発表要旨 (2010年3月30日)

第1 部 講演「板木は語る」永井一彰
第2 部 法蔵館 蔵の板木の見学会

 2010 年3 月の関西部会は2 部構成で開催した.第1 部は永井一彰氏(奈良大学国文学科教授)の講演「板木は語る」,第2 部は法蔵館(京都市下京区)の蔵に入って板木の見学会を行ったのである.
 開催の経緯は以下の通りである. 2009 年11 月の秋季研究発表会において,法蔵館の西村七兵衛会長に板木(版木)をご持参いただき,「京の仏教書出版」というテーマでご講演いただいた.このときの懇親会の時の話から今度はぜひ法蔵館の蔵を実際に見せていただき,板木研究の第一人者である奈良大学の永井一彰教授にご講演いただこうという企画が生まれたのである.そして3 月30 日,創業400 周年を迎える法蔵館のご協力によってこの企画が実現した.
 永井教授がおられる奈良大学は貴重な板木を多数所蔵されている.折しも2010 年2 月19 日から,その貴重な板木約5000点を検索・閲覧できる「板木閲覧システム」も公開された.この閲覧システムは,奈良大学博物館,奈良大学図書館が所蔵・管理する資料を中心に,江戸時代~大正期にかけて商業出版に使われた板木自体を検索し,高精度な画像で閲覧できるようにしたものである.
 永井教授が発見し,2009 年12 月8 日に記者会見を行った小林一茶の「発句合」(ほっくあわせ)の募集チラシの板木など,貴重な資料も多数含まれている.
 関西部会ではこのプロジェクトの中心人物である永井教授のご講演のあと,法蔵館の蔵に入って実際に板木を見学し,その後,質疑応答の時間をもった.
 講演では,版木の実物を示しながら再利用するために版木の厚さは一定していないこと,売れない本の版木は削って再利用されていたことなど,版木の基礎知識についての解説があった.そして出版物からは見えない情報が版木にあり,出版や印刷の現場の生々しい情報が残ることなど具体的事例を挙げながら説明を受けた.
 質疑応答では板木の所有権が本屋と著者のどちらにあるのか,版木データベースの利点と問題点などさまざまな質問が出て,活発な部会となった.
 やはり現物を見ながら,また400 年の歴史を持つ版元の蔵に実際に入っての部会は意義深いものがあった.会場で板木を回覧して参加者の手が真っ黒になったりして,なごやかな雰囲気の関西部会だった. その後,京都駅前の店で懇親会が開催され板木をめぐる話は尽きることがなかった.
 なお,いつもの関西部会とは異なり,蔵に入ることなども考慮して参加者募集を行ったため,出版学会会員のみ15 名限定の会となった.すぐに予約で満席となったことは言うまでもない.
 日本出版学会関西部会のこの行事のために,午後からの業務を休業してこの貴重な機会を与えてくださった法蔵館のみなさま方にこの場を借りて心から感謝申し上げたい.
 (文責:湯浅俊彦)