関西における出版の現状と課題  内山正之 (2009年7月28日)

関西部会 発表要旨 (2009年7月28日)

関西における出版の現状と課題
内山正之

 出版業界再編成の動きが盛んです。大日本印刷による図書館流通センター,丸善,ジュンク堂書店,主婦の友社との提携,同じく大日本印刷と小学館,集英社,講談社などによるブックオフとの提携,一方で凸版印刷と紀伊國屋書店が提携するなど,従来であれば想像もつかなかったグループ化が進展し,話題を呼んでいます。
 このお話をした以降,ジュンク堂書店が文教堂書店を傘下に収めたという情報も入ってきました。
 一方,グーグルやアマゾンによる全文検索サービスに対抗してトーハンではインターネット書店「セブンアンドワイ」や「e-hon」における「立ち読み」ページの本格稼動に向けて,出版社に情報提供を求めています。このような出版業界の大きな変化の中で,関西の出版社はどのような状況に置かれているのでしょうか。

 という大きな課題をもらったのですが,

 正直なところ,私の持っている情報は,たぶんみなさんと同じか,それ以下だと思います。図書館流通センターと特約的な契約をしていますし,ジュンク堂にもしょっちゅうおじゃましています,凸版さんや大日本さんにも知り合いはいますが,なにも聞こえてきません。関西にいては,なにもわからないのです。
 大手出版社は,関西支社を閉め,中堅出版社は,営業出張を減らしてきています。これは,営業面で関西圏に,拠点を持つ意味がなくなってきているということです。
 地方の中でも比較的人口が多い関西でこうなのですから,他のエリアではもっとこの状況が進行しています。
 タイトルに「関西における出版の現状と課題」とありますが,実は,この事態は,出版界に限ったことではなくほとんどすべての業種で同じように起こっています。製造業,飲食業,一般小売,そうやないというとこを見つけるのが難しい。
 この結果,関西系企業すらも,本社機能などの知的業務を東京に一極集中化し,他の地域は手足,あるいは収奪対象になってしまっています。ここを何とかしないと,地方は立ち行きません。
 では,この状況を打破するためにはどうすればいいのか,ずばりその答えは,関西独立にしかないのではないかと密かに考えています。
 今年「ムーブ!」という本を作りました。大阪の朝日放送制作の情報番組「ムーブ!」,社会保険庁のスクープなどを連発する傍ら,核武装についての議論の必要性をコメンテーターが提案するなど,多方面に物議をかもし,今年春,他局番組以上に視聴率を取りながら打ち切られた番組です。
 「ムーブ!」は,この番組のスタッフの記録をまとめた本です,ぜひ,読んでみて下さい。
 この本のコメンテーターの一人と「関西道州制」についての本を今作っています。問題意識は,まさに,関西復権。地方復権。関西でまず実験的に試行して成功すれば,他の地方も元気になることができるのではないかと考えています。
 まあ,こんなことを夢想していますが,道州制はできたとしても大分先の話,今,現実にやっているのは,情報収集や,業界内や地域で力を持つための仲間作りです。
 昨年秋,「版元ドットコム関西支部」を設立しました。版元ドットコムは,出版業界のIT化の波に乗り遅れないために,小零細150社が集まって作った団体です。月一回の会議とおもにメールのやりとりで,情報交換をしています。ここには,かなりの業界情報が集まってきています。
 うちも参加して,メールで情報をいただいていますが,大阪にいて受け身でいると詳細はやっぱりよくわからないのです。
 そこで,昨年関西支部を発足させました。
 今のところ,数か月に一度,本部から数人の会員に来ていただいて情報をいただき,話し合うのと,昨年11月にジュンク堂書店梅田店で,関西支部版元フェアを行ったぐらいしか活動は行えていないのですが,これから,自前でも情報収集できるように拡充していきたいと思っています。
 他には,出版ネッツ関西という会にも参加しています。この会は,出版界で活躍するフリーの人たちの労働組合です。組合員の数は総勢170名ほど。関西は70名ほどいます。フリーのみんなの出版労働者としての権利を守るために,活動しています。通常は,東京支部と関西支部に分かれて活動し,月一回会議を開いて課題に取り組んでいます。
 この団体では,今年(2009年)5月,仕事の展示会,出版ネッツ関西フェスタを大阪のドーンセンターで行いました。文化祭のような雰囲気で,各自が,コルクボードに仕事を展示。また,組合員がかかわって作った本の即売会。今年の目玉企画として組合員が,自分の得意ネタで500円の参加費を取って一時間のセミナーをやりました。「フリーランスの仕事つくり術」「出版社はこんな企画を待ってます!」「取材ライターのためのデジカメ術」「私が『童話』作家になれた,その方法」「InDesignによる組版を実感する」など,15のセミナーを実施し。延べ300名のお客様が参加してくださいました。結果2日間でフェスタ全体での動員数も500名。特に宣伝をすることもなく,口コミだよりだった中では,大成功でした。
 特に好評だった,組合員によるセミナーは今後も月一回のペースで行うことになりました。これは,組合員以外でも参加できる形式でやっています。セミナーをやる本人も,受講する人も,共にスキルアップにつながると思います。
 他にも,勁版会という,関西の出版営業マンの月一勉強会ももう30年近く続いています。
 去年まではまだ,今後の関西の出版界はどうなるだろう,出版業界の中で生き残れるだろうかという話をしているレベルでしたが,今年の本の売り上げの落ち込みは「ひどい!!」としか言いようが無く。未来なんて無いかもと,思わざるおえません。そして,これは前述のように,すべての業界で起こっているのです。しかも,今年後半に入ってから,良いと思っていた首都圏エリアでも,同様の状態になってきました。
 まあ,首都圏の話はこの際,いいです。私たち関西の版元には,関西目線の情報を関西のみならず全国の読者の手に届ける使命が,あります。
 テレビでは,制作費や経費の削減のため,首都圏からの情報垂れ流し状態になってきています。関西の大手新聞の記者に聞くと,紙面が減ってきたことと,やはり経費削減のため,関西版でも,関西の,特に文化面の情報を掲載できなくなっていると言っています。
 出版はミニメディアです,小回りも効きます。今が,関西出版のメディアとしての正念場なのでしょう。止まれ,あかんあかんと言っていると,あかんスパイラルに入ってしまいます。この国の価値観が一元化しないように,関西目線でがんばります。その使命のもとがんばって,とにかく続けていく,今はそれしか言えません。
(内山正之)