■ 関西部会 発表要旨 (2005年2月28日)
日本における出版流通合理化構想の検証
――1980年代日本図書コード導入事例を中心に
湯浅俊彦
第1に日本図書コード導入問題研究の背景と動機は,日本図書コード導入問題を考察することによって,出版流通合理化構想を構造的にとらえることにある。1980年代の日本図書コード導入論争を再構成し,分析することは出版流通論にとって避けて通ることのできない基礎的な研究である。なぜなら現在でも,例えば日本出版インフラセンター(JPO)の「出版在庫情報整備研究委員会」による「商品基本情報収集・配信センター構想」など,書誌情報の作成・提供のインフラストラクチャー(社会的基盤)を整備することは今日的課題として論議されているからである。
第2に,日本図書コード導入の経緯であるが,海外からの要請と国会図書館からの要請を受けて,書協を中心に導入の方向性が決定づけられたといってよい。1976年,国際出版連合大会(IPA)の京都大会におけるISBN導入勧告や同じ年の国会図書館からの要請により,1978年,書協の「コード統一委員会」は従来の書籍コードからISBNを主体とする新コードへの移行を答申,1979年12月に日本図書コード管理委員会の準備会,1980年1月に日本図書コード管理委員会の発足へとつながっていくのである。
第3に,日本図書コード導入の意義について,主として「図書館雑誌」1980年10月号の特集をレビューすることによって再構成した。(1)出版流通の円滑化,(2)資料収集と情報公開の促進,(3)図書館の総合目録(ユニオンカタログ)の作成,(4)図書・印刷カードの発注,(5)貸出記録の作成,という5つの意義を提示した。
第4に,導入反対運動とその根拠である。出版流通対策協議会と図書コードの問題を考える会の2つの団体が反対運動を展開し,その根拠は(1)不透明な委員会設立背景,(2)中小出版社への差別的取り扱い,(3)取次支配拡大の危機と書店のコスト負担増,(4)通商産業省による出版管理と国立国会図書館による出版統制,(5)図書館利用者の貸出記録管理,の5つであった。
第5に日本図書コード導入によってもたらした出版流通合理化への影響である。書店SA(ストア・オートメーション化),出版業界VAN(付加価値通信網)の構築,書籍JANコード(バーコード)の導入,EDI(電子データ交換)システムの進展,取次のFA(ファクトリー・オートメーション)化と出版SCM(サプライ・チェーンマネジメント)の構築は,ISBNの存在抜きにはありえなかったであろう。
第6にまとめと研究成果としては,次のようなことが挙げられる。日本図書コードの導入は,その後の日本における書誌情報・物流情報のデジタル化への道のまさに転換点であること。そして日本図書コード導入時の論争に見られた諸問題を構造化することによって,出版流通合理化に対する出版業界と図書館界の視点の違いが明らかになった。また,反対運動の根拠として挙げられる諸問題はその後の出版流通合理化構想の中でもやはり繰り返し現れている構造的な問題であることを確認した。
質疑応答の時間では,日本図書コードと雑誌コードやISSNとの関係,ISBNの13桁化の動向,日本図書コード反対運動に対する歴史的評価の問題,また読者の意見はどうだったのかなど,さまざまな質問があり,ディスカッションとなった。なお参加者は11名,会場は関西学院大学大阪梅田キャンパス,日時は2005年2月28日(月)18時30分~20時30分であった。
(湯浅俊彦)