■ 関西部会 発表要旨 (2004年9月22日)
電子情報の長期保存
2004年9月22日,日本出版学会関西部会は第3回(通算第29回)の研究会を開催した。報告者は依田紀久氏(国立国会図書館関西館・電子図書館課)で,テーマは「電子情報の長期保存」である。
冒頭,依田氏は国立国会図書館関西館について写真を交えながら概要を説明し,次に電子資料についての取組みについて解説された。
国会図書館はいうまでもなく納本制度に支えられた図書館だが,2000年10月からパッケージ系電子出版物が納本対象となった。また,オンライン系の電子出版物については現在,納本制度審議会で審議中とのことである。
関西館事業部電子図書館課の事業概要として,研究企画係で電子情報の長期的保存に係る調査研究とレファレンス協同データベース実験事業,ネットワーク情報係でWARP(インターネット資源選択的蓄積実験事業)とDnavi(データベース・ナビゲーション・サービス),資料電子化係で近代デジタルライブラリー,電子情報発信係では「ギャラリー」を担当している。
このうち近代デジタルライブラリーは2002年10月より国会図書館所蔵の明治期刊行図書の一次画像データをインターネット上に公開し,目次検索も可能である。公開しているのは,著作権の保護期間の終了したもの,もしくは著作権者の許諾を得たものであり,明治期刊行図書10万2000タイトルのうち,現在までに3万5000タイトルを公開している。この著作権処理プロセスの概略は,(1)資料からの著作者の洗い出し (2)著作者に対する没年調査 (3)著作者の連絡先調査 (4)連絡先が判明した著作者への許諾作業 (5)著作者の連絡先が判明しなかった資料は,文化庁長官裁定,となっている。
また,WARPでは,「ウェブコレクション」800種と「電子雑誌コレクション」1200種を収集している。「ウェブコレクション」は事業趣旨に賛同する機関を対象に,ウェブサイトを収集,蓄積,保存している。ウェブアーカイビングをめぐる制度的,技術的課題を探るものである。「電子雑誌コレクション」はウェブ上の電子雑誌を技術的に可能な範囲で収集し,電子データのまま蓄積・保存するものである。
「ギャラリー」では,平成15年度に3つのコンテンツの作成に取り組んだ。そのうち「インキュナブラ-西洋印刷術の黎明-」では西暦1500年以前に金属活字で印刷された書物であるインキュナブラを西洋印刷術の解説を付して紹介。また,「近代日本人の肖像」では近代日本の形成に影響のあった,政治家,官僚,軍人,実業家など,約200人の肖像写真を人物の略歴とともに展示している。
依田氏は次に電子情報の長期的保存及びアクセスの保証について話を進めた。国会図書館では電子情報の長期的保存に係る調査研究事業を2002年度より3ヵ年計画で実施中である。長期保存の対象となる電子資料については,パッケージ系電子出版物としての音楽資料,映像資料,電子資料/ゲームその他,オンライン系電子出版物としての一般的なホームページ,ウェブ・アーカイブ,デジタル・ミュージアム(集積保存事業)などあらゆるものが含まれ,従来の媒体資料の保存とは異なる点が多い。
特にパッケージ系電子出版物について,国会図書館に納本された電子出版物の中から200件を抽出し最新再生環境のもとで再生テストを行ったことを紹介した上で,電子情報を再生するためには,ハードウェア,OS,アプリケーションなどの再生環境を用意することが必要であり,紙媒体と違い,アクセスを保障するためには,単に媒体を劣化しないように保存すればよいという問題ではないと解説した。
依田氏は電子情報の長期的保存とアクセスの保証について,取り組むべき課題は多岐にわたると述べた上で「1.技術的依存関係 2.短寿命な技術 3.メタデータ 4.真正性 5.アーカイブシステム 6.ストレージ 7.知的財産権 8.コスト」という8項目を指摘した。さまざまな利害関係者,研究機関や研究者,保存機関が協働するしかないという暫定的な結論を語って,依田氏の講演は終了した。
会場からはバルク収集のように一括してなんでも収集すると検索が難しくなるのではないかという質問や,あるいは表現を萎縮させてしまう可能性はないのか,など多くの質問があった。その後,懇親会に会場を移し,講師を囲んでゲームの保存についてなど,さらに活発な意見交換が行われた。
(文責・湯浅俊彦)