「『誰が書店を殺したのか』はどのように作られたのか」  戸田香 (2002年7月26日)

 関西部会   発表要旨 (2002年7月26日)

「テレビドキュメント『誰が書店を殺したのか』はどのように作られたのか」

戸田香

 7月26日の関西部会では,冒頭の25分間,「誰が書店を殺したのか―出版不況の構造に迫る」を録画したビデオを上映しました.
 つづく戸田香氏の講演では,ご自身がもともと本好きで,大学の2年間,書店でアルバイトしていた話から始まりました.書店にアルバイトをしていた時にもらったお金はほとんど本に使ったというくらいの本好きだそうです.テレビの仕事を始めて15年になるそうですが,朝日新聞社会部に2年間,出向したことがあり,そのときにメディア欄で「地方発の雑誌が元気だ」というコラムを書いたこともあるとのこと.出版は東京集中型になっているが,関西の雑誌が東京で売れている例を取り上げたのです.
 ところでこの「テレメンタリー」という朝日放送のドキュメンタリー番組では,昨年10月までハンセン病患者の取材をしていたのが終わり,11月から書店廃業を題材にした今回の番組の取材を始めたとのこと.昨年末近くからカメラを回し,3ヶ月くらいの取材を経て,放映されました.番組放映後,異動で記者になり,現在は神戸支局に勤務されています.
 この「誰が書店を殺したのか」に関して,戸田氏は「3ヶ月取材しただけでは分からない」というのが感想だそうです.今までいろんな取材をしてきたけれど,本のことについては一般の人にはその流通経路がよくわからない.そこで,こんな本の世界があるということ,業界の抱えている複雑さのようなものが見た人に伝わればいいという観点から制作したということでした.
 当日,会場の参加者は32名とこれまでになく大盛況で,用意した椅子が足りなくなるほどでした.そして,会場からは鋭い質問が相次いで出され,その質問に丁寧に,しかし毅然と答えていく様子がまさにこの番組のディレクターとしての戸田氏の自信をうかがわせました.
 例えば「仮説があって,検証しているのではないか.それにしては書店内部が描かれていない.図書館や新古書店などの犯人探しをするのは簡単だ」と言った批判的な意見も出されました.これに対して戸田氏は「一般の人にとっては本屋が潰れているのを知らない.何が起きているのか.新古書店,コンビニとつぎつぎ取材していった.結局,帰着点はない.見てもらっている人に考えてもらいたい.書店の内部努力がないという意見が多く出されていたのは知っている.しかし,それはどの業界でもそうだと思う」と語られていたのが印象的でした.
 特に「ストーリーがあるのか?」とよく聞かれることについて,戸田氏は「視聴者はシビアに見てるなあと思う」と語っておられました.しかし,ドキュメンタリー番組の制作に関しては,始めるときにはストーリーはない,取材段階で結論が見えているものはない,と断言.いろんな人に話を聞くと混乱することもあるが,基本は原点に帰ることであることを強調されました.この番組の場合,取材意図は「本屋がたくさん潰れているらしい.それはなぜか」であり,結論は出ず,ただ現象面をなぞっただけの感が多少残ったのが残念とのことでした.タイトルを決めたのも取材がほとんど終わった段階だったそうです.
 出版に関するテレビ番組について,制作したディレクターをお招きして直接聞いてみるという今回の関西部会はその目的を十二分に達成したと自負しています.すばらしい報告をして下さった戸田香さん,そして鋭い質問を浴びせかけた会場のみなさんに当日の司会者として改めて感謝したいと思います.
(文責・関西部会 湯浅俊彦))