書籍出版流通の再考――制度的メカニズムと課題  蔡 星慧 (2008年7月30日)

■ 関西部会   発表要旨 (2008年7月30日)

書籍出版流通の再考――制度的メカニズムと課題

蔡 星慧

 本報告では近代出版流通から継がれる流通構造の特殊性による,現代書籍出版流通の課題をその制度的メカニズムから考察してみた。雑誌中心の出版流通における小部数書籍出版流通の配本体制とマージン体系の課題,返品率が増加している中での委託制と責任販売制を含む買切制の併行など流通制度の柔軟性,再販制のあり方を中心にした問題を根底においている。
 近代出版流通は,明治中期以降登場した大取次による雑誌中心の流通は戦時中の日配体制,1949年の新取次体制に受け継がれる。流通制度からみると,明治41年,大学館が書籍の委託制を,明治42年には実業之日本社が『婦人世界』の創刊3年目の新年号において返品許可制の委託制を実施した。戦後は1953年,改正独占禁止法の第二十四条の2(現,第二十三条)において,再販制が容認され,著作物は法定再販として成立する。定価販売制の動きは1892年6月に「医書組合」から定価販売制が取り上げられ,雑誌界の関心も広がり,1915年10月,岩波書店が奥付に定価販売制を明示,雑誌界や東京書籍商組合の販売規定案などへ拡大され,戦後の再販制にその帰結を見ることになる。
 しかし,戦後取次主導型や委託制の合理性の一方で,返品率の増加と取引条件の差別性,書籍配本体制,マージンの改善問題,在庫の負担,公取による出版界の大手寡占構造に対する問題から再販制の存廃論が続いている。長年,議論し続けられてきたこれらの問題は流通制度のメカニズムに大きく関わると考えられる。実際,出版社・取次・書店の対象者に対する三者インタビューから委託制,再販制,買切制に対する考えを伺ってみると,委託制と再販制に対する流通制度に対する依存度は非常に高く,日本独特の合理性も評価している。とりわけ,書店の対象者たちの委託制や再販制に対する依存度が目立つ。責任販売制や買切制,再販制の廃止は書店を始め,業界全体のリスク負担の懸念からである。一方で,現行の流通制度に代わるものがないとすれば,流通制度の改善は出版界最大の課題であり,委託制と買切制の併行,再販制の弾力的運用への積極性を考えるべきと述べる対象者たちの見解も見られる。三者インタビューにおいて対象者たちの共通する出版界の課題は流通構造,とりわけ流通制度の改善に尽きる。
 現状に対する出版人の見解を調査した上記の結果以外に,出版界の変化も見られる。1974年,書協の責任販売制の提案以降,日書連の責任販売制の提示,2006年日書連が提示した新販売システムの実施(講談社の2点を実験的に行った),ブックハウス神保町,専門書出版社を中心にした直販の動き,書店の現場から聞こえる声などである。
 流通制度を巡る議論は今後も続くであろうが,報告者は私見として,大手と中小の棲み分けを通したそれぞれの特化,流通制度の併行,業界共通の議論の場を深め,現実的な対策を見ることを提案しながら報告を終える。
(蔡 星慧)