『女学生の友』にみる男女交際観   藤本純子 (2006年7月28日)

 ■ 関西部会   発表要旨 (2006年7月28日)

『女学生の友』にみる男女交際観 ―― 純潔教育と性解放のはざまで

 1960年代に欧米に始まった「性革命(性解放)」の日本社会への流入を一つの契機に,総理府青少年対策本部より提出された『青少年の性意識』(1972),また同じく『青少年の性行動』(1975)は,青少年の性をめぐる諸実践が親世代との比較において大きな変化の只中にあることを告げた。なかでも注目されたのは性行動の価値基準に関する調査結果であり,そこで顕在化した「愛情さえあれば」という性と結婚をめぐる新たな規範意識は,現在の愛を最終審級とする性規範意識の原型として捉えることが可能である。
 本報告は,現在の女性が有する性規範意識の構造を明らかにしていく作業のひとつとして,1950年代から70年代前後の女子中高生向け総合雑誌『女学生の友』における男女交際観を考察することを通し,現在にいたる性規範意識の形成過程の一端を明らかにすることを試みる研究の中間報告という位置付けを有するものである。
 1970年代に顕在化する性意識の変化に言及した研究は,セクシュアリティ研究の文脈を中心にいくつかの論稿を確認することができるが,その多くは社会変動論的視点より変化を導いた背景的要因の析出に重点をおいた論展開を行なったものである(黒川義和1990,村松博雄1976,瀬地山角1997,滝沢正樹1990など)。これらの研究によって70年代の「解放」的性意識を導いた社会的背景についてはある程度の蓄積が得られたといえる。けれども,性にまつわる意識の変化という人々の社会生活上の大きな変化を包括的に捉えていくためには,社会変動の諸相を直ちに性意識や行動の変化という事態に関連付けるだけでは不十分である。社会変動に伴い,青少年の性をめぐる諸実践がいかに形成されたのかを,その生活世界に即すかたちで明らかにする必要があろう。本研究は,性に関する最大の情報源のひとつであり,当時他メディアにおいて再生機能が一般化されていなかったなかで,情報への反復的なアクセスが容易かつ安価で手軽という雑誌メディアの有する資料的価値を評価し,女子中高生という社会集団の意識形成過程を探る手がかりとして用いた。
 今回の報告では,ロマンティック・ラブ・イデオロギー,近代家族観の浸透と崩壊過程という戦後の性愛空間の整理を含む問題の所在,1950年~70年の『女学生の友』における男女交際記事の推移,60年代以降の記事にみられた顕著な構造的特質からの考察という三点を中心に発表を行ない,出席者より60年代という時代に関する多様かつ有益な知見を得ることができた。
(藤本純子)