出版学・編集学を大学でどう教えるか  猪口教行 (2006年3月27日)

 関西部会   発表要旨 (2006年3月27日)

出版学・編集学を大学でどう教えるか

猪口教行

 発表者は,大学講義における出版学を「出版にたずさわる者として知っておくべき知識」,編集学を「編集実務」と限定していることをまずお断りする。ここでは発表者が行っている講義の概要を仮に計12講にまとめてご紹介し参考に供したい。

■出版学
「第1講 言葉と人間」 『新約聖書』「太初に言(ことば)あり」の意味を考える。「言(ことば)」は,「word」の訳語で,本来は「ロゴスlogos」だった。また戯曲『奇跡の人』では,三重苦のヘレン・ケラーが言葉を獲得して動物世界から人間に再生する。古代日本でも言霊(ことだま)という概念があった。こうした例を通して「人間は言葉なくして考えることはできない」という事実を再認識し,「本離れ」「活字離れ」の最大の問題点が「考える力」の衰えにあることを説く。
「第2講 編集とは何か」 「篇」と「編」の語源を説明し,「編集」という言葉の定義と,新聞,雑誌,単行本における編集者の役割,媒体の刊行スパーンに合った企画発想などを語る。さらに岸田吟香の日記からヘボン編『和英語林集成』の編集の様子を読む。
「第3講 中国の文字と紙」 甲骨文字,紙以前の木簡・竹簡,帛(絹布)の説明と馬王堆出土書物(帛・竹簡)の例,そして蔡倫が紙をつくった(105年)話をする。
「第4講 日本の文字と世界最古の印刷物」 4世紀後半~5世紀初め,百済から王仁が論語と千字文をもたらした公伝記録。世界最古の印刷物と言われた8世紀の「百万塔陀羅尼」だが,1966年発見の韓国の印刷物の方が古いと考えられるに至った経緯。
「第5講 日本の印刷と活字」 春日版「大般若波羅蜜多経」,五山版,「正平版論語」。イエズス会による活字のキリシタン版。秀吉による朝鮮の印刷技術略奪と慶長勅版本。家康の伏見版または円光寺版(木活字)と駿河版(銅活字)。しかし以後,木版印刷が盛行。
「第6講 西洋における出版の歴史」 エジプトのパピルスやアレキサンドリア文庫から始まりグーテンベルクの活版印刷術へ。フランスの『百科全書』刊行とフランス革命を語り,「本は向かうところ敵なしのマスコミュニケーションの手段となった。そして,知識の総体を社会改革の武器として提供した『百科全書』を範として,この後の本は,ただ世界を解釈するのではなく,世界を変革しようとし始めるのである。」(B.ブラセル)で結ぶ。

■編集学(単行本の場合)
 以下,講義演題のみあげて概要は省略する。「第1講 出版業界」「第2講 本の基礎知識(本の各部の名称など)」「第3講 出版企画」「第4講 原稿整理と校正」「第5講 カラー・印刷・製本」「第6講 著作権」。
 特に以下のような「用語」解説にポイントを置く。小見出し,捨て扉,半扉,credit line,版面,ぶら下げ,隠しノンブル,泣き別れ,片柱,音引き,雨だれ,中黒,表ケイ,小口,のど,線画,透過(反射)原稿,抜き念,束,色校,取り勝手,予備率,ヤレ,刷り本 等。
(猪口教行 記)