■出版史研究部会/学術出版研究部会 共催 発表報告
(2015年12月9日)
「Kodansha America Inc.がめざしたもの
――国際出版活動の可能性」
白井 哲(元Kodansha America Inc.代表)
発表では,まず東京オリンピックの前年,1963年に当時の社長であった野間省一の長年のビジョンから設立された講談社インターナショナルと,当時の競合他社をふくむ英文出版の状況について説明があった。同社の大きな特徴は,販売を委託せずに完本を自社販売することにあったが,さらに現地出版社として完全に独立した企画製作販売を行うことをめざして改組したのがKodansha America Inc.である。ここに至る経緯としては,出版に携わる人材(ブックピープル)の実力主義による流動性や,マーケットのありかたなど,日米のブックビジネスの違いが大きく影響した。Kodansha America Inc.がめざしたのはたんなる翻訳出版ではなく,アメリカをはじめとする英語圏の読者に対する日本由来の出版社としてのリーチであり,ニューヨークタイムスのベストセラーリストにあげられるタイトルも出た。21世紀の今日,国際出版の可能性は自国で売れた本を翻訳することではなく,共通のGlobal Issueを世界に向けて発信するところにあり,拠点としては人材豊富なニューヨークがもっともふさわしい,という提言で締めくくられた。
国内における既存出版市場の縮小を背景に,再び国際市場へ目が向けられようとしているが,戦後の日本において,国際出版がどのように構想され,展開されようとしていたのかについてのまとまった議論は,ほとんどなされてこなかった。今回の研究会は戦後出版史と現代をつなぐ新たな問題意識を共有し,21世紀における出版の可能性を探るきっかけとなった。事前申し込みで40名の定員に達した会場では,講演後も白井氏が持参された多くの出版物を手に取りながら質問する参加者があり,関心の高さが見受けられた。
白井 哲氏プロフィール
1969年,早稲田大学卒業,講談社入社・書籍販売部。1978年米国George Washington大学へ留学後,国際室にて版権輸出・製造輸出・国際共同出版を担当。1981年にNY赴任,86年Kodansha America Inc.設立とともに代表を務める。1991年帰国。現在はNPOブックスタート代表として活動するほか,日本の国際出版を紹介する私設ライブラリーBOOKS ON JAPANを神保町に開設。
(文責:柴野京子)