編集者から見た出版翻訳の現在
田口恒雄 (日本経済新聞出版社シニア・エディター)
小都一郎 (光文社編集部)
2019年度、本部会としては最初の研究会となる今回は、翻訳出版の現場の最前線で活躍する2名の編集者の方をパネリストとしてお招きし、翻訳出版界の現状と可能性について検討することを試みた。
まず、不朽の古典の数々を世に出し続ける「光文社古典新訳文庫」の担当編集者である小都一郎氏からは、2006年の立ち上げ以来の同レーベルのコンセプトや、翻訳者との度重なるやりとりを経て新訳を完成させ、刊行に至るまでの基本フローやご苦労などについてご報告いただいた。古い作品を「いま、息をしている言葉で」世に出すのだという小都氏の言葉に、同シリーズの尽きない魅力の一端を垣間見たように思われた。
続いて日本経済新聞出版社の田口恒雄氏からは、いち早く話題書の版権(翻訳出版権)を獲得する為の熾烈な出版社間競争や、それを仲介するリテラリー・エージェントとのやり取りなど、翻訳編集の現場からの数々の経験をご報告いただいた。原稿チェックのプロセスにおける新聞社系出版社の編集者としてのバランスの取り方の妙など、翻訳編集の仕事の幅の広さについて考えさせられる興味深いエピソードの連続であった。
お二人からのご報告の後は会場全体をまじえた討論と質疑応答に移った。当日ご参加いただいた方々は会員11名、非会員14名の計25名。出版社勤務、翻訳者、研究者など、様々な立場から出版文化に携わる参加者が集い、意見交換を行った。翻訳者になるために必要な資格とはどのようなものがあるか。デジタル時代における翻訳著作権のあり方はどのように捉えるべきか。また翻訳書における「訳注」の付け方や「索引」の価値や意義について、等々、いずれともこれからの本部会の展開につながる論点が数多く提起されたように思われる。今後とも編集者、販売担当者、翻訳者、研究者など、翻訳にまつわる様々な視点をつなぎ、議論する場としていきたい。
日時: 2019年7月29日(月) 午後7時00分~9時00分
会場: 専修大学神田キャンパス1号館13階・13A会議室
参加者: 25名 (会員11名、非会員14名)
(文責:山崎隆広)