産業翻訳業界はどうなっているか
高橋 聡 (実務翻訳者、日本翻訳連盟理事)
「産業翻訳」がカバーする領域は多様である。今年度3回目の開催となった本部会では、実務翻訳者として長年の経験をもつ高橋聡(たかはし・あきら)氏を講師としてお招きし、特許、医薬、IT、工業技術、ビジネス、出版、映像ほか、多分野にわたるこの業界の仕事の定義から、市場規模や分野別売上高の推移、そして実際にそれに携わる翻訳者たちの収入や受注形態の実情など、様々な角度から詳細な講義を行っていただいた。
社会の産業構造が変化すれば、クライアントやその発注内容も変化する。そして、各種の「翻訳支援ツール」などの普及によって技術環境が変化すれば、クライアントと翻訳者の役割や、仕事の進め方も変わる。当日は、AIのディープラーニングを応用して入力と出力の間の中間層を介して訳文を作る「ニューラル機械翻訳」など、最新の技術をはじめとする機械翻訳の歴史についても実際の翻訳例とともに解説いただき、市場の概況と翻訳の実践と両方の視点からの知識を学ぶ貴重な機会となった。いまや産業翻訳業界でも機械翻訳はまったく無視し得ないものになっているが、それによって、翻訳者が果たす役割として機械翻訳を施した後の「ポストエディット」というタスクや、あるいは機械による翻訳を施す前の「プレエディット」というタスクが生まれているという指摘は、技術と人間の関係を考える上でもきわめて興味深いものであった。今後、文化産業論的な視点からも非常に重要な論点となるだろう。
レクチャーの後は、参加者9名(会員6名、非会員3名)をまじえた質疑応答となり、市場の動向や仕事の内容の変化についてなど、様々な立場からの質問によって活発な議論が展開された。次回研究部会は11月24日(土)14時より、同会場にて、「映像翻訳」をテーマに行う予定である。「翻訳」という視点を通じて、文化、産業、社会、技術など、様々な問題を考える場としていきたい。
日時: 2018年9月22日(土) 午後1時00分~2時30分
会場: 株式会社アイディ会議室
(文責:山崎隆広)