誤訳はどうして起こるか
柴田耕太郎 (会員、翻訳家)
我々が日頃親しんでいる翻訳書には、実はいかに誤訳が多く存在するか。今年度2回目となる本研究部会では、部会長でもある柴田会員より実例の紹介をまじえた興味深い議論が提出された。
まず、誤訳が起こる背景には、翻訳の出版に携わる翻訳者、編集者、そして読者の3者が作り出す構造的問題がある。原書が置かれている文化に対する理解の不足、翻訳書籍プロパーの編集者の不足、そして語学力の不足等々、現在の日本の翻訳出版における様々な課題が柴田会員より指摘され、議論の前提として参加者に共有された。
続いて、オスカー・ワイルド、ロアルド・ダールほか、これまで著名な翻訳者によって日本語翻訳されてきたいくつもの作品が事例として紹介され、英語原文と対照しながらなぜ誤訳が生じてしまったのか、理論的な解説が柴田会員よりなされた。誤訳を防ぐためには、良い翻訳者を選ぶという編集者の役割、しっかりとした英文法を学ぶという翻訳者および編集者の役割、また原文の内容を日本文化の文脈(コンテクスト)に置き換えながら翻訳するということの重要性などが指摘され、読者も含めて翻訳出版に関わる人々が一体となって翻訳教育の環境を向上させていくことの必要性が、柴田会員から繰り返しうったえられた。
当日は猛暑の中6名(会員2名、一般4名)の参加者があり、現在の翻訳出版が抱える重要な問題点が確認されることになった。次回研究部会は9月22日(土)13時より同じ会場にて、「産業翻訳」をテーマに開催される予定である。継続的な研究会開催によって問題意識を広く共有していくことに努めていきたい。
日時: 2018年7月21日(土) 午後1時00分~2時30分
会場: 株式会社アイディ会議室
(文責:山崎隆広)