デジタル時代に移りゆく学術出版市場
――欧米の学術雑誌と大学教科書を中心に
船守美穂 (国立情報学研究所准教授)
高等教育と研究の領域において出版と出版社はどのように変化しているのだろうか。とりわけ大学におけるデジタル化が進んでいるといわれているアメリカにおいてはどうか。本部会では、国立情報学研究所の船守美穂先生を講師に迎え、学術雑誌と教科書を中心に、欧米におけるデジタル化の様相について報告をうけた。
アカデミアと出版社が共存共栄を果たしていた従前の印刷物の時代と違い、デジタル環境の整備、ボーン・デジタル教材の開発、古書市場の発達などによって、現代の北米教科書市場ではさまざまな変化が訪れている。変化のひとつは、この10年間で大学教科書の価格は82%まで高騰し、これに対抗する教師たちのオープンのデジタル教材づくりが始まったことだ。背景には、政府の教育政策をもまきこんで行われたオンライン教育への転換があった。
他方で、研究分野においては、学術ジャーナルの価格高騰を巡る対立がある。ジャーナルの価格が、1986年から2011年にかけて4倍にまで膨れ上がったことによる図書館や研究者の出版社への抗議はますます高まりつつある。2018年にはドイツがエルゼビア社との交渉を打ち切りジャーナルの購読を中止し、さらにオランダ、スウェーデン、ノルウェーなどがこれに続いた。今年にはいってからの北米カリフォルニア大学とエルゼビア社の交渉決裂は記憶に新しい。アカデミア側は学術雑誌の価格高騰に対抗すべく、オープンアクセス運動による新しい出版の形態を模索し、普及させている。
このように、欧米においては、教育と研究のデジタル時代をむかえ、紙の形態の出版が衰えデジタルに移行している。そのことで、アカデミアと出版社のこれまでの共存共栄の関係にもゆらぎが見え始めている。その結果、たとえばエルゼビア社など大手出版社は出版業から研究支援プラットフォームプロバイダへの転換を図ることで、デジタル化に備えている。
船守先生は、以上のような最新の情報を含む厖大な資料を提示しながら2時間にわたるレクチャーを行った。日米の産業構造の違いはありながらも、学術出版研究にデジタル化の視点が不可欠であることを改めて確認できる講義であった。
なお当日の発表資料は下記に公開されている。
https://researchmap.jp/?action=cv_download_main&upload_id=252012
日時: 2019年3月26日(火) 午後6時30分~8時30分
場所: 専修大学神田キャンパス 5号館541教室
参加者: 80名(会員30名、非会員50名)
(文責:橋元博樹)