学術出版の課題と役割――出版流通の見地から考える
牛口順二(会員、株式会社紀伊國屋書店 顧問)
世界的な出版環境変容の波が、学術出版の在り方にどのような影響を与え、それにどう向かい合っていくのかを探る連続報告の2回目として、主に流通・販売に携わってきた立場から報告を行った。
前回の橋元博樹会員からの報告(2017年2月17日実施)を受け、まずは学術出版の市場構造と最近の動きについて整理した。主たる市場である図書館予算の動向や大学の研究教育環境の変化、それらが教科書採用を含めた学術書の販売に与えた影響を分析し、もともと限定された市場の規模が少しずつ縮小傾向にあることを確認した。
次に、学術書の流通改革に関して、主に大学市場を対象とする外商系書店によって、1990年代から2000年代にかけて行われた学術系和書を含めた流通改革の動きを整理した。書誌データベースの整備やコード体系の統一、在庫情報の段階的な整備状況などをベースに、出版流通の弱点といわれる注文品対応が、学術市場向け書籍に特化した形ながら改善が進められてきたこと、加えて市場が縮小傾向に向かう中で、営業手法の改善等により一定の掘り起しがなされてきたことが報告された。
これらの報告から、学術書に関しては、今後の流通改革によってもたらされる効果は期待できないのではないか、という仮説が提示された。
次に、海外の学術系出版社の対応について、前回の橋元報告での北米大学出版局の動向に続いて、STM系商業出版社としてドイツのシュプリンガー社を取り上げ、学術雑誌の電子化を受けた書籍出版における動きのなかから、書籍出版でのオープンアクセスモデルへの対応や、新しい出版形態への取り組みなどを紹介し、それらが全て電子化対応をベースに、その「繋がる」機能を駆使して、新たなニーズも引きだし、過去の出版物も常に入手可能な状態を維持し、PODによる冊子体での提供にも対応していることなどを紹介した。
最後に、今後の日本の学術出版の課題として、冊子体を中心とした物流・流通改革だけに期待するのでなく、学術出版の果たすべき使命の面からも、より積極的に電子化に取り組むことで、学術研究・教育に資するとともに、制作・流通プロセスを効率的に運用することで規模の拡大に頼らずに、サステナブルな出版事業を継続することを提案した。
後段の討論では、討論者として登壇した金原俊氏(医学書院取締役副社長)により、日本の出版社が取り組む電子書籍サービスとして「医書.jp」の紹介が行われ、会場の出席者(計14名:会員9名+非会員5名)とともに日本の学術出版の電子書籍対応について活発な議論がなされた。
日時:2017年6月9日(金)午後6時30分~8時30分
会場:専修大学神田キャンパス 571教室(5号館7階)
(文責:牛口順二)