日本の学術電子ジャーナルの現状と展望
林和弘
学術出版研究部会では,学術コミュニケーションの現状と将来を研究主題としている。今回は,日本化学会が発行している電子ジャーナルの編集者である,林和弘氏を講師として,2004年12月1日(水)午後6時30分から東京電機大学7号館を会場に「日本の学術ジャーナルの現状と展望」という主題で研究会を開催した。
学術コミュニケーションのメディアとして学術出版の特徴は,学術情報がその生産者であり消費者でもある研究者の「業績」として評価され,その評価が研究者の採用や昇任に直接結びついていることである。この学術出版のシステムを構成してきたのが,「査読」による学術情報の評価であり,「出版」による公開と価値付けである。これまで,この学術出版システムのメディアは「印刷メディア」(冊子体)であり,その担い手は,学術出版社であり,学会などであった。
1.学術雑誌の電子ジャーナルへの移行
しかし,特にSTM系の学術雑誌では,1998年のWeb投稿査読のシステム,相互リンクのインフラが整備されると多くの雑誌が「冊子体」から冊子体+電子ジャーナルへと移行をはじめた。その第一の理由は,「冊子体」より「早く研究成果」を発表できるからである。現在では,投稿から査読を経て,組版,ウェブでの公開まで,20日まで短縮している。この公開までの速度が評価され,海外からの投稿もある。
2.学術情報の有料公開からJ-Stageでの公開へ
日本化学会では,1999年に電子ジャーナルの有料公開をはじめたが,アクセス数が少なく,2002年にJ-Stageに載せた。学術情報のオンライン化では,無数に存在する情報の中でいかにアクセス数を増やすかが課題であるが,ひとつの学会だけではスケールメリットがなく,アクセス数を増やす自助努力も限界があったという。J-Stageで公開することにより,アクセス数は増加し,ダウンロードされる割合も増えた。しかし,一方で,J-Stageには現在150誌がオンライン化されていて,その中で「日本化学会の学術ジャーナル」というタイトルブランドが薄まることは避けがたいのである。日本化学会では,近い将来,もう一度課金システムを確立して,独自に公開する予定という。
3.電子ジャーナルのビジネスモデルの確立
しかし,それまでには,いくつもの課題が横たわっている。ひとつは,現在の電子ジャーナルの発行システムでは直接費(55%は人件費)の回収が見込めないことである。J-Stageに公開されている多くの電子ジャーナルがそうであるように印刷会社のノウハウに頼らざるを得ない状況がある。また個人購読が2割を占める現状で冊子体と電子ジャーナルの購読契約内容の難しさ,データを保存するアーカイブの強化,電子ジャーナルのビジネスモデルのスタンダードがまだ生み出されていないという課題もある。
多くの課題はあるが,学術情報の公開が冊子体に比べて短時間でできる学術ジャーナルの電子化が大きな流れとなっていることは間違いない。
(文責 山本俊明)