膨大な配信データから今を創る!
――『書評大全』『追悼文大全』『映画評大全』の編集から見えてきたこと
飛鳥勝幸 (会員、三省堂出版局)
共同通信文化部編『書評大全』『追悼文大全』『映画評大全』、3点を三省堂より刊行した。本発表では書評16年分(約5000点)、追悼文27年分(約770編)、映画評21年分(約930本)の膨大な共同通信配信記事から、レファレンス企画としての今日的活用法を示し、また出版文化史の観点からも分析した。大全シリーズのキーワードとして、時代性・必要性・優位性・娯楽性・意外性を挙げ、配信記事から本・人・映画を知り、未来に繋ぐ企画の位置づけとした。なお、共同配信の特徴として、文化部記者とデスクによる評者の選定(読者に近い記者目線)、毎週のコンスタントな配信(除く、追悼文)、文字量が一定していること等が挙げられる。
『書評大全』では、書評に取り上げられた書籍、その内容からも、時代のニーズを読み取ることができる。転載不可と著作権者・著作権継承者不明の合計95名、合計175点を除いた約5000の書評データから、キーワード索引を眺めると、オウム真理教・格差・老い・孤独・東日本大震災・貧困等が目立った。格差・貧困は2005年以降の書籍に多く登場し、時代に寄り添う書籍の傾向を見ることができる。同様に、国別、登場した動物、タイトルに使われている色や年齢等のキーワードからも分析を試みた。掲載作家の分析では上位者の特徴が見られ、掲載出版社の分析では、多くは総合出版社で刊行点数の多い出版社が上位にくるが、点数は少ないが、創立の精神と著者との関係性が見える地方出版社、地方新聞社出版部の事例も報告した。
『追悼文大全』では、追悼文に登場する人物が、他の追悼文にも登場することもあり、新たな人間像を読者に示している。人と人との連環を知り、こころに響く1編と出合える本である。『映画評大全』は時空を超え、さまざまなストーリーと出合える本であり、娯楽性を高める手段として、キーワードの活用法を説明した。
さて、こういった企画での大きな問題として、転載許諾交渉が挙げられる。著作権者・著作権継承者の調査は難航したが、その実例と問題点を報告した。膨大な著作権者・著作権継承者を抱え、かつ企画内容からも少部数刊行しかできない場合、原価計算上、転載許諾料が少額になる場合が多い。許諾交渉の中で、日本文芸家協会への委託が増えることでの費用増についても報告した。
以上、本企画の特徴として、情報の宝庫で更新性があること、著者(監督)・評者(筆者)・読者(観客)と人が介在し、三者三様の読み・解釈の多様性を知ることができること、キーワード索引等から、書籍・人間・映画のチカラを再発見できること、レファレンス本でありながら完結している形態は現代のニーズにあっていること等を報告した。特に国内の全通信社、全新聞社を横断した膨大な総合書評データベースが構築できることを私自身の夢としたい。
参加者26名/講師・会員7名、一般参加者19名
会場:日本大学法学部本館145教室
(文責:飛鳥勝幸)