『出版の冒険者たち。』への讃歌
植田康夫
(週刊読書人顧問)
今年の3月『出版の冒険者たち。』という本を水曜社から刊行した。これは同社から、2009年に刊行した『本は世につれ。――ベストセラーはこうして生まれた』と『雑誌は見ていた。――戦後ジャーナリズムの興亡』に次ぐ本で、現代の出版界を読み解く3部作の最終巻である。
今度の本では、連載した中から、7つの出版社を取り上げ、「ポプラ社・二玄社・小学館・大修館書店・冨山房・暮しの手帖社・農山漁村文化協会」の巻を収めた。
1.「出版の冒険者たち。」の歩みから
ポプラ社は、田中治男会長が、月曜日から日曜日まで毎朝5時45分に車で出勤し、同社は田中会長を筆頭に書店まわりによって読者を開発し、児童書出版から一般書へと出版ジャンルを広げていった様子を紹介した。
二玄社は、会長の渡邊隆男氏が“故宮”に魅せられ、その美術品の複製まで行うようになったことを紹介した。
小学館は、学年別学習雑誌を幹として花開き、今は、総合出版社として大を成していることを紹介した。
また、大修館書店は『大漢和辞典』を冨山房は『大言海』を刊行し、暮しの手帖社は、花森安治・大橋鎮子氏による『暮しの手帖』の発行にスポットをあて、農山漁村文化協会は、農村を対象にしながら、新たな出版の方向を拓いたことを紹介した。
これらの特色ある出版活動をこの本では紹介したが、共通しているのは、いずれの出版社も、「出版の冒険者」という言葉を体現していることである。
2.「出版の冒険者たち。」の目指したもの
ポプラ社は、昭和22年(1947年)に田中治男氏が小学校時代の恩師である久保田忠夫と創立し、最初は児童書の出版でスタートし、のちに坂井宏先氏が社長として就任し、『ズッコケ三人組』などの大ベストセラーを出版し、一般書の出版にも乗り出した。
小学館は、大正11年(1922年)に『小学5年生』『小学6年生』を創刊して、学年別学習雑誌というジャンルを拓き、大修館書店は、鈴木一平が学生を対象とした参考書の出版を行い、大正12年の関東大震災を機に決定版の漢和辞典『大漢和辞典』を諸橋轍次(てつじ)の編集によって刊行する。
冨山房は、高知県から上京した坂本嘉治馬(かじま)が最初は本屋を開業し、やがて大槻文彦の『大言海』を刊行するに至る。これらの大部の辞典が、出版に長期の年月と多額の資金を要したが、彼らはただひたすら「後世に残る出版物を刊行する」という気持ちで、出版にとりくんだ。
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植田会員は、これらの出版活動を紹介することで出版の冒険がいかなるものであるかを明らかにしたが、「出版の冒険者」としての歩みをたどることで、出版という活動がどのようなものであるかを考える道しるべを後世に伝えている。
*参加者:18名(会員15名、一般3名)
会場:日本大学法学部
(文責:出版編集研究部会)