デジタル出版部会 発表要旨 (2003年2月6日)
電子出版はロマンだ!
新しき器には新しきコンテンツを,今こそ出版が変わる
デジタル出版部会は2月6日,東京・池袋のサンシャインで「電子出版はロマンだ!―新しき器には新しきコンテンツを,今こそ出版が変わる―」のテーマでパネルディスカッションを開いた.東京電機大学出版局の植村八潮氏をコーディネーターに,パネリストは,(株)パピレスの天谷幹夫社長,(株)ブッキングの佐田野渉常務,デジブックジャパン(株)の林陸奥広社長.3社とも,電子出版に関しては日本での先端企業である.各氏,具体的な電子出版ビジネスを語った.以下,概要を紹介する.
電子出版の課題
天谷氏によると,日本の電子出版が遅れを取る理由は,日本語OCRの精度がアルファベットやハングルに比べて悪い,読書ビューアの乱立により電子出版用のデータフォーマットが多すぎる(アメリカはマイクロソフトリーダー,パームリーダー,ebookリーダーの3点くらい),メーカーや出版社による著作物の囲いこみ,紙の本が売れなくなるという出版社の思い込み,などがあるという.
林氏によると,紙の本が売れないから電子書籍を事業にしようという消極姿勢では,ビジネスにならないという.絶版本の電子倉庫としての側面が長所に挙げられるが,絶版になるには,それなりの理由もある.デジタルアーカイブにしてビジネスになるのかと,疑問を投げかけた.
また,電子書籍といっても読者,取次,出版社などそれぞれの立場で捉えかたが異なる.電子書籍は,コンテンツでもハードでもない.読者や著者,編集者,書店などをつなげる“仕組み作り”が重要と林氏は述べている.
会場からも,さまざま意見が飛び交った.出版社側が自分たちがおもしろいと思って電子出版を行わないと,読者もおもしろがらないのではないか,安くなくてはいけない,無料のコンテンツがあるから売れないというのは間違い,お金を払うと読まなくてはいけないと思う,などの意見があった.
印刷会社からの意見として,どれが正しいフォーマットかよく聞かれる,という話が出た.フォーマットが多種多様にあるため選択に迷う出版社(者)が多いようだ.
オンデマンド出版の課題
佐田野氏によると,オンデマンド出版が伸び悩んでいる理由は,少部数だけ作ってもたいした売り上げにならない,編集者の人件費を考えると採算が合わない,などである.それでも同社では,ここ1~2年は黒字化してきたという.
今後の事業展開
林氏は,電子書籍を紙の出版物よりも早く出すことを考えている.たとえば,従来のビジネスモデルで,雑誌の連載ものを単行本化することがある.その場合,雑誌はマーケティングの一つと考えられる.電子書籍を先に発行し,販売が良好ならば,紙の本でも発行するモデルが成立するという考え方だ.
また会場から,投稿論文で,投稿から掲載まで1年かかった例が挙がり,電子出版であれば,その期間を短縮できるのでは,という意見が出た.
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書籍の内容に合わせ,パッケージ系やネットワーク系の電子書籍と従来の紙の書籍を,発行時期も含めさまざまな形で組み合わせて,試行錯誤していく状況が今しばらく続くと考えられる.(『印刷雑誌』2003年4月号より転載)
(文責:中村幹)