デジタル雑誌の現状分析と課題  梶原治樹 (2009年1月27日)

デジタル出版研究部会   発表要旨 (2009年1月27日)

デジタル雑誌の現状分析と課題

 1月27日にデジタル出版研究部会では,雑誌研究部会と共催で,デジタル雑誌をテーマに今年度第1回の部会を開催した(東京電機大学丹羽ホール)。
 報告者は,国際会議の準備と運営にも関わった梶原治樹氏(扶桑社)であり,演題は「デジタル雑誌の現状分析と課題」である。
 企画意図は,デジタル雑誌に対するビジネスとしての興味から一端離れ,純粋にデジタル雑誌の特性に注目することである。印刷雑誌とデジタル雑誌の連続性・不連続性を検討し,両者のメディア特性について討議したいと考えた。
 デジタル雑誌を考えることは,結果として雑誌とは何か,を考え直すことになる。そこで梶原氏はデジタル雑誌の定義と分類を明らかにするために,まず「雑誌連動Webサイト」と「デジタル雑誌」の違いを比較した。
 その上でデジタル雑誌とは「デジタルメディア上で雑誌に模したページ構成を行い,コンテンツ表現を行っている媒体のこと」と定義した。
 次に,出版界におけるデジタル雑誌の取り組みを豊富な事例をあげて解説した。
 ビジネスモデルとしては「有料か無料」という側面と「オリジナル記事か雑誌記事の二次利用か」という側面から4パターンに分けている。
 無料の二次利用としては,デジタル雑誌を特徴づけた「ページめくり表現」がある。これはウェブの立ち読みから広がっている。
 有料の二次利用としては,Zinioに代表される雑誌一冊の丸ごと販売がある。日本では富士山デジタルが同様のサービス開始して2年になる。Zinioが世界で「定着」していながら日本で盛り上がらない理由の一つとして,Zinioの市場が世界規模で,もともと物流の限界がある一方,日本は狭い国土で隅々まで雑誌流通が整備されていることがある。
 また権利処理が解決されていてラインナップが豊富であり,さらに割安感が演出されている点が指摘された。
 さらに出版社によるデジタル雑誌の取り組み事例や「Webマガジン配信サービスコンソーシアム」等を検討した。
 梶原氏は,現時点においては「デジタル化した雑誌」は読みにくく,一般に普及するのは難しい,と推論した上でデバイスの進化によって,状況は大きく変わると予測した。
 講師を含み101名の多数参加者となり,会場を変更しての開催となった。活発な質疑応答が行われ,テーマに対する関心の高さがうかがえた会であった。
(文責:植村八潮)