歴史部会 発表要旨 (2008年10月3日)
明治期書店史料へのアプローチ
――松本市高美書店のケース
和田敦彦
2006年より,長野県松本市の高美書店が蔵する,同書店の近代書店史料についての整理,目録化を進めている。同書店は江戸時代より続く地方書店であり,近世における出版活動を含めた同書店の活動はこれまでも調査,研究がなされてきている。同書店には,明治から昭和にかけての業務史料が豊富に残されてもいる。その史料は関東,関西をはじめとした書肆とのやりとり,さらには地方の学校や書店どうし取引に関する広範囲,多様な史料を含んでおり,近代の書籍流通や出版の歴史を追う上での貴重な史料群と言える。
報告では,この書店に調査に入った経緯にはじまり,その後の調査の進め方や進行状況についてまず述べた。また,地域の書店史料を扱うことにどのような意味があるのかについて,書籍の流通や所蔵場所を考えることの重要性とあわせて論じることとした。
そして,具体的な史料調査,目録化の方法と,それを進めるための具体的な組織作りについて報告し,長期的に史料整理を行ってゆくための大学カリキュラムと連動したアーカイブズ学習や,リテラシーの歴史を考える研究会活動についてふれることとした。
そのうえで,具体的に高美書店史料に含まれる史料類について,いくつかに分けて紹介することとした。これらの史料類は書簡やはがき,各種の帳簿や領収書,広告等,様々なタイプの史料を含んでいる。とはいえ,史料調査は現在進行中であり,全体像を提示するというよりも,あくまで現在整理作業中の史料を提示する中間報告である。具体的には主に四つの観点から史料を提示することとした。まず「教科書販売,地域教育との接点」として学校との教科書取引に関する史料群,次に「東京の書籍商とのかかわり」として東京の書籍商組合や出版社とのやりとりに関する史料類について述べた。そして「地域書店相互の関係」として県内各地の書店とのやりとり,取引や,高美書店と地域の出版事業の関わりに関する史料群についてとりあげた。最後に「売薬広告と流通とのかかわり」として,高美書店の売薬業,売薬広告に関する史料に関して述べることとした。
(和田敦彦)