「出版史研究の手法を討議する」特別報告の連載を開始するにあたって

「出版史研究の手法を討議する」特別報告の連載を開始するにあたって

中村 健
(大阪市立大学学術情報総合センター)

 関西部会では2014年3月より、「会員間、研究者間で、「出版史研究」のより活発な議論と成果の進展のため、ベースとなる研究手法、研究の進め方、評価モデル、定義などを共有し、その意味を探ることを目的」にといささか大上段に構えた内容で「出版史研究の手法を討議する」研究会シリーズを開催してきた。
 一口に、出版史研究といっても時間軸も研究事例も幅広く、共通の問題意識をもって議論することがなかなか難しい。そこで、このシリーズでは、通常の部会報告と異なるスタイルで運営している。通常の部会は、ある程度まとまった研究成果やテーマを報告するが、テーマとしてまとまる前の状態や問いかけ自体を主題としたところが特徴だ。
 討議にあたっては、関西地区、中部地区の出版史研究をする若手会員を核に、各世代の会員が一緒になり、議論を繰り返す。どちらかといえば、大学のゼミの雰囲気に近い。
 報告者は自分の研究手法を報告しながら、随時テーマを、例えば研究上の疑問点や悩みを参加者に投げかける。それに対して討議の場が生まれていく。熱度の高い議論空間をつくるため、参加予定者には、できるだけ、事前にレジュメを配布し、読んできてもらい質問の準備をしてきてもらう。
 各報告者の研究領域が明らかになるとともに、各テーマに2010年代の視点で迫る姿勢が、刺激を生み出し、論点の意識を高めていく。参加者は決して多いとは言えないが、少数精鋭ならではの熱気と、非会員の方からの「実際にどのような手順で進めてよいか迷っていたがここにきて疑問が解決した」とか「同じような悩みをもっていたことが分かった」などの応援の声をいただいた。
 そうした出来事に押されて、「関西部会.臨時増刊」内で、各報告の詳細や討議後に報告者が思索したことを、通常の報告の倍程度の分量で特別報告として皆様にお伝えしていこうと考えた。
 この連載をきっかけとしてさらに多くの会員と手法に関する議論の場が広がることを期待する。また、出版学や出版史研究に興味をもった人にとっては、出版学会の扉を開くきっかけになればと考えている。
 議論を専門とした場が設定できたのは、部会という強固な枠組みのおかげだ。
 出版学研究者を呼び込み、結びつけ、討議を自然な形で醸成していく「場」としての部会。さらに通常の報告から臨時増刊のコンテンツを生み出す「メディア」としての部会。部会の活動が他の専門研究者を呼び込む「広告」としての部会。
 部会というフレームの変幻自在の柔軟性を再認識した。
 月一回程度を目途に、連載のリズムでアップを目指したい。