「女子向けアイドル誌」における読者交流とその変化 田島悠来 (2014年11月 秋季研究発表会)

「女子向けアイドル誌」における読者交流とその変化

田島悠来
(同志社大学創造経済研究センター特別研究員)

はじめに
 本発表では,1980年代以降に日本で創刊した若年層女子向けの「アイドル誌」における読者空間で,どのような交流が行われており,時代を経ることでどのように変化してきたのかを,『POTATO』(学習研究社以下学研),『Duet』(集英社→ホーム社),『Wink up』(ワニブックス社)三誌を対象として,各誌の読者ページを①文字によって書かれたものである投書②イラストや写真による創作物の二つに分類しその内容を分析することにより導き出した知見を報告するものである。
 1970年代の『平凡』(平凡出版),『明星』(集英社)の人気と,80年代初頭の創刊誌ブーム,それによる雑誌のセグメント化の進行に乗じて,80年代には集英社,学研を中心に「アイドル誌」の発刊が相次ぐ。『平凡』『明星』が広く若年層を読者としていたのに対して,それらの雑誌群は,主として学校に通う年代から読まれ,「女子向け」「男子向け」と,読者のジェンダーによってカテゴライズされたものとなっていることが,『読書世論調査』(毎日新聞社)の「学校読書調査」における「いつも読んでいる雑誌」という質問項目の結果を読み解くことで明らかとなる。
 そこで,本研究では,読者のジェンダーに従い分離した「アイドル誌」のうち,現在も刊行中で一定の読者数を獲得し続けている「女子向けアイドル誌」に着目し,読者交流の場である読者ページにおいて,いかなるコミュニケーションが展開されているのかを探っていく。

読者ページの分析
 まず,投書に関しては,三誌ともに共通する事項として,読者ページ内のコーナー,投書の内容について,第一に,「異性(=男子)との恋愛」,第二に,「ジャニーズへの関心」という二つの特徴が見られた。特に2000年代に入ると,読者の恋愛の対象が現実世界の男子(性)から,「ジャニーズ」へと変わり,読者は投書の中で「ジャニーズ」への恋愛感情を露わにし始める。更に,2012年になると,例えば,『POTATO』の「ポテラブレター」,『Wink up』の「Wぱらメッセージセンター」(ともに2012年より見られる)というコーナーのように,投書者が「ジャニーズ」に向けて一方的に告白文を綴ることに特化したものが出現するようになっている。また,2003年からは,冒頭に,「私は○○(「ジャニーズ」の固有名詞)が好きな××(投書者の学年)」という紹介文が記された投書が,その内容如何にかかわらず三誌ともに登場している。ただし,投書を寄せるのは学校へ通う年代に限っているのではなく,「35歳の主婦」「40代の母」といったそれ以外の層からのものも見られ,「ジャニーズファン」である読者同士の投書を通じた世代を超えた交流もなされている。
 次に,創作物に関しては,投書同様,「ジャニーズ」との関係性をイラストやハンドメイドの作品を通じて促進させていこうとしている様子が,1997年以降,『Duet』を中心に見受けられるようになっている。それは,「空想夢想こんなセリフで口説かれ隊」(『Duet』)のような「ジャニーズ」との擬似的な恋愛をシミュレーションするコーナーから,「ジャニーズ」を動物に見立てたり,様々な衣装を着せたりするものまで,描き手の想像力と創造性を発揮させることによって成立している。そして,2012年までに,読者同士が「ジャニーズ」のイラストを他の読者に描いてもらうことをリクエストするコーナーがいずれの雑誌においても現れるようになる。

まとめ
 以上,得られた知見をまとめると,大きく次の四点となる。第一に,「女子向けアイドル誌」の投書コーナーにおいては,異性である男子との恋愛が時代を超えた読者の主要な関心事となり,他の読者との交流を通じて,生じる悩みを解決していこうとしていることが明らかとなった。第二に,2000年頃を境に,読者の恋愛対象は現実世界の男子から「ジャニーズ」へと変化し,2012年になると,読者間交流というよりも,読者と「ジャニーズ」との一対一のコミュニケーション,更に言えば,読者側から「ジャニーズ」へ向けた一方向的な想いの吐露に重きを置くコーナーが出現するようになる。第三に,「ジャニーズ」への関心の高まりと時を同じくして,読者は投書文で,「ジャニーズファンである女子」であるというアイデンティティ表明を行い空間内での帰属意識を形成するようになるが,それは,児童・生徒に留まらず読者の年齢や属性をも越境していくものであった。第四に,2012年までには,「ジャニーズ」のイラストという創作物を介して読者同士が交流するコーナーが設けられるようになっていたが,これは,「ジャニーズ好き」であることによって読者間に絆が芽生えていることを想起させる新たな交流形態であると考えられる。