長尾景弼と博聞社 ―― 創業期を中心に  稲岡 勝 (2006年4月21日)

 歴史部会   発表要旨 (2006年4月21日)

長尾景弼と博聞社 ―― 創業期を中心に

稲岡 勝

 博聞社は内田魯庵の指摘があるように、明治前期の巨大出版社であった。しかし今日まで、その出版活動を明らかにした研究は皆無に近いと言ってよい。既存の出版印刷史にほとんど言及が無い以上は、独自に新史料を発掘し構築するより外はない。新聞・雑誌についてはすでに前から関連する記事や広告を収集していた。2005年になって東京都公文書館の所蔵史料を集中的に調査した結果、博聞社の創業事情を含め初期の出版活動を明確にする史料を発掘することが出来た。また同社の出版物そのものについても、明治新聞雑誌文庫や内閣文庫に所蔵があって、書誌学的な裏付けを得ることが出来た。こうして曲がりなりにも「長尾景弼・股野兄弟と博聞社」(『都留文科大学研究紀要』第63集、2006年3月刊)としてまとめ、創業(明治5年9月)から社長・長尾景弼の死(明治28年2月)に至る博聞社の出版活動の大筋を明らかにすることが出来た。これにより、従来の博聞社言説は大半がガセネタによる神話伝説に近いことが判明した。
 今後はその骨格に肉付けをして、より豊かな博聞社像にしていくことが課題となる。例えば個々の代表的な出版物(Ex. 久米邦武『米欧回覧実記』など)に関し、具体的に調査をしてその出版史的意味を明確にすること。或いは長尾兄弟の出身地播州龍野に赴き、現地調査(郷土史家たちの成果収集も含む)を行い、彼等の履歴や行実について更に深めること等が肝要となる。
(稲岡 勝)