発表要旨 (2012年10月25日)
学術出版の新しい流れと最近のトピック
――OAジャーナル・XML出版・科研費出版助成
林 和弘
(元日本科学会,日本学術会議連携会員)
日本における学術出版社は,その流通・マーケティングを歴史的に取次――書店ルートという一般書と同一のプラットフォームを利用しているために,学術コミュニティの状況について必ずしも十分に理解しているわけではなかったし,そのプラットフォームが安定している以上は,また理解する必要もそれほどなかった。ところが,昨今の「出版不況」は学術出版の持続性をも危機へとおいやり,また並行して進行している学術情報のデジタル化は学術コミュニティのありようを根本からかえてしまった。
今回は元日本化学会の林和弘氏を講師に招いて,「学術出版の新しい流れと最近のトピック」として,電子化をキーにした学術情報流通の最新の状況について報告していただいた。参加者は日本の学術出版者を中心に30名ほど。
林氏はまず自身がてがけた日本化学会の電子ジャーナルについて紹介したのち,トピックとして,オープンアクセス出版,文科省科研費成果公開促進費の公開などについて報告した。その上でインターネットが与えてきた,あるいはこれから与え続ける学術情報流通への影響について述べた。
それはすなわち研究者にとっては「書棚,引き出しに貯めて郵送で情報交換」を行っていた時代から「PCのローカルエリアに貯めてemail添付で交換」という時代を経て「WEB上に場所を設けてその場所をemailで交換」,さらに「クラウド上に情報を置き合い,共有し,多数間で情報交換をする」時代への変化である。
そして,日本でも注目され始めている論文管理・共有ソフトMENDELEY,ソーシャルメディアを利用して論文のインパクトを分析する新手法ALTMETRICS,研究者の名寄せを行う国際組織ORCID,国内における競争的資金制度を中心として研究開発管理に係る一連のプロセスをオンライン化するe-Rad(府省共通研究開発管理システム)など,これからの学術コミュニケーションを特徴付ける最新の動きを紹介した。
紙から電子への移行はほぼ終わったが,学術コミュニティにおける真の電子化はまだこれからである。すなわち,これまで学術出版や学会が担っていた研究発表のあり方や質の保証方法や研究評価自体が,いよいよ変わろうとしているのである。我々は,あらゆる情報や組織が,「多面的に」,「早く」,「簡便に」,つながり,「連携しやすく」,「比較されやすい」時代をより意識する必要がある。そして,旧来からのステークホルダーが自発的に発展,進化しない場合は研究者自身が新しい枠組みをつくってしまう可能性(リスク)を意識する必要がある。こう纏めたのち最後に次のように締めくくった。
大学,図書館,出版社,学会が一定の予算規模を維持している間に学者とともに協同(再編)して考えていく必要性はないだろうか。
(文責:橋元博樹)