『雑誌が売れないわけを販売現場から探る』  名女川勝彦 (2008年4月15日)

■ 出版流通部会   発表要旨 (2008年4月15日)

シリーズ『出版流通の現状と未来』(3)

 好評の出版流通研究部会『シリーズ・出版流通の現状と未来』の第3回目は,4月15日,八木書店会議室において,「雑誌が売れないわけを販売現場から探る」と題して開催された(参加者35名)。
 報告者の文藝春秋取締役・名女川勝彦さんは,昨年末に刊行した冊子『これで雑誌が売れる!』(日本雑誌協会発行)の編集長。
 現状を認識するにあたり,とかく書籍出版に目を奪われがちだが,わが国の出版産業と流通システムは雑誌を軸に発展・整備されてきたこと,雑誌販売の低迷は出版産業全体を衰退させる構造になっている,という事実に着目すべきだと強調した。

「雑誌が売れないわけを販売現場から探る」
名女川勝彦
 名女川勝彦さんは,出版科学研究所のデータをもとに07年度における各カテゴリー別の雑誌動向をトレースしたあと,雑誌販売の現状を次のように語った。
(1)十年間で1万軒以上の中小書店が廃業した(販売拠点の減少)
 ここ十年間は毎年1,200~1,000店の廃業が続いている。一方,大規模書店の新規出店が続き,日本全体の総売り場面積は増加している。
 雑誌販売の基本の一つとして販売拠点の拡大がポイントとなるが,大規模書店・郊外店での雑誌売上は大きなものではなく,配達による顧客拡大はしない。中小書店の廃業は販売拠点減少となり雑誌販売低迷の大きな要因となっている。
 また,中小書店の総売上に占める雑誌売上比率は65~75%,大規模書店では20%以下である。つまり,中小書店にとって「雑誌は米の飯,書籍はおかず」であり,雑誌の不振は中小書店の経営を直撃した。「中小書店の廃業」と「雑誌不振」がお互いの後を追うような悪循環を起こしている。
(2)パート,アルバイト任せになった雑誌販売現場(販売技術の欠落)
 1996~97年にかけて雑誌販売は大いに伸びた。黙っていても雑誌・書籍が売れた時代である。と同時に,日本経済も好況をきわめ給与水準が上がり,拘束の緩いアルバイト人口も増えた。
 雑誌販売の現場は「品出し」「(返品)抜取り」「付録組み」など手作業による定型作業(ルーティンワーク)が多く,「単純作業はアルバイトに任せる」という認識がこの頃から広まった。
 従来,雑誌販売は書籍販売とは別体系の販売技術として先輩諸氏が継承していたが,店頭に並べておけば売れたという経験が災いし販売技術の蓄積をしてこなかったこと,販売現場のパート・アルバイト任せが常態化したことなどにより,継承すべき販売技術が途絶えてしまった。(冊子『これで雑誌が売れる!』は,アルバイト・パート従業員のための販売技術マニュアルである。)
(3)自動配本システムによる雑誌配本のゆがみ
 90年代に大手取次はコンピュータによる雑誌自動配本システムを構築し大幅な人件費・物流コストの削減をはかった。それまでは送品・返品・支払いに関する膨大な手書き伝票が書店取次間を往復していた。また,雑誌銘柄の選定,配本部数も取次の地区書店担当者(番線担当者)の「見計らい」による配本だった。
 コンピュータの導入により,販売実績に応じた配本と返品の減少を目指したものだが,返品減少を急ぐあまり,現実には雑誌配本の縮小を招くという現象が起きている。実態に応じた配本部数の調整(定期改正)が大きな課題となっている。
(4)雑誌読者の変化(所得格差の拡大と中間所得層の減少)
 この十年間,年収200万円以下の“アルバイト収入層(ニート層)”と2000万円以上の“中間富裕層”が増加し二極分化が拡大。アルバイト層,サラリーマン層に支えられていたコミック雑誌・総合雑誌・女性誌の複数購読が激減した。コミック誌を車内で読んでいたサラリーマンは,いま,ケータイゲームに熱中している。また,情報のデジタル化にともなう読者意識の変化に対応しきれていない雑誌編集の遅れも指摘しなければならない。
(5)雑誌販売部数の激減はコミック雑誌の低迷が大きい
 かつて毎週650万部,あるいは200万部を発行していたコミック誌があったが現在は半減ないしは三分の一に激減した。大掴みに言えばコミック誌の激減が中小書店の経営に大きな影響を及ぼした。
 一方,総合誌,女性誌,趣味誌は景況に影響され広告収入の減少が続き刊行部数を減少させ,また,休刊誌を増加させた。
(6)「雑誌」の果たしている機能を再確認
・わが国の出版産業は売上規模・発行規模において雑誌が大きなウエイトを占めているという認識。
・明治以来,わが国の出版物流の根幹は雑誌物流が築き,支えてきた。また,取次機構も雑誌の大量物流システムを構築することで利益を上げてきた。
 書籍物流は一書店への配本単位が少量・多品種であるばかりでなく,初回配本以降の客注・補充注文の配送は昔からコスト割れしており,すべての取次にとって書籍物流は赤字部門となっている。雑誌の不振は取次にも大きな影響を与えている。
・文藝・ノンフィクション作家は「雑誌」から生み出される。雑誌での掲載を繰り返し選別しながら有力作家を生み出す手法は,少ないリスクで新人作家を世に送り出す優れたビジネスモデルである。また,編集者との共同により文章力・取材力・構成力などがトレーニングされてきた。雑誌が持つ,土を耕し,種を蒔き,水を遣り育てる,という機能を再認識する必要があるのではないか。この機能も昨今衰弱しているのではないか。雑誌の不振はいずれ書籍(文藝・ノンフィクション)の弱体化をもたらすと危惧している。
(文責:出版流通研究部会)