1.概 況
1969年3月に設立された日本出版学会は、創立から50年をむかえ、新たな時代への歩みを進めている。これまで設立の理念と志を尊重し、円滑な研究者の交流や情報交換をおこない、研究成果の発表のために、学会誌や会報の発行、研究発表会や各種の部会活動、そして国際出版研究フォーラム(IFPS:The International Forum on Publishing Studies)への参加を継続的におこなってきた。
これらが可能となったのは、何よりも学会を構成する会員の方々の努力と、経済的な支援をはじめ様々な便宜をはかっていただいている賛助会員の方々のご協力の賜物であり、ここに改めて深甚なる感謝の意を表したい。
2022年度における日本出版学会の活動は、それまでの研究や人的交流の蓄積に基づいて着実に進められ、出版研究に対する関心は一層高められた。特に2020年度より開始した産学連携プロジェクトにより、積極的に出版業界との連携を推進した結果、日本書籍出版協会や出版文化産業振興財団との交流に繋がった。これは日本出版学会の歴史の中でも特筆すべきことである。
春季研究発表会は、2022年5月14日に日本大学法学部神田三崎町キャンパスで開催した。参加者は86名であり、7名の研究発表、2つのワークショップ、1つの特別講演をおこなった。
また、秋季研究発表会は、2022年12月3日に追手門学院大学総持寺キャンパスで開催し、40名の参加者で、4名の研究発表および2つのワークショップをおこなった。
2.会員数
正会員 287名
賛助会員 法人 32社
名誉会員 2名
(2023年3月末日現在)
3.総 会
2022年総会は、2021年5月14日、日本大学法学部神田三崎町キャンパスで88名(委任状を含む)の会員が出席、2021年度事業報告、同決算、同特別会計決算、2022年度事業計画案、同予算案、同特別会計予算案をそれぞれ審議・可決した。
4.理事会
2022年度の会務をおこなうため、2021年総会から本総会に至るまでの間、理事会を下記のとおり開催した。
第1回: 2022年5月14日
第2回: 2022年6月27日
第3回: 2022年9月5日
第4回: 2022年12月12日
第5回: 2023年3月6日
第6回: 2023年4月17日
第7回: 2023年5月13日
5.調査研究委員会
調査研究委員会は、主として各部会間の連絡調整にあたった。各部会の活動状況は次のとおりである。
(1)学術出版研究部会
4月11日(オンライン)「〈学術出版を語る4〉出版の未来、出版社の未来――多様な読者の求めるもの」矢部敬一
5月17日(オンライン)「〈学術出版を語る5〉学術出版と大学出版の課題と展望――電子学術書実証実験から10年を経過して」黒田拓也
(2)雑誌研究部会
10月17日(オンライン)「戦後フランスにおける言論誌の軌跡」中村督(日本出版学会賞受賞記念講演会)
11月30日(オンライン)「戦後少年誌の変容と「ストーリーマンガ」の成立」金泰龍
2月24日(オンライン)「大宅壮一が遺したもの」阪本博志
(3)出版アクセシビリティ研究部会
3月8日(オンライン)「読書のバリアフリーを進める」新名新・林剛史・植村八潮・落合早苗
(4)出版技術研究部会
今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(5)出版教育研究部会
11月18日(オンライン)「専門書店と取次の関係を考える:猫本専門「神保町にゃんこ堂」を題材にして」姉川夕子・徳永江里子
(6)出版産業研究部会
11月19日(オンライン)「韓国出版産業の現状と課題」白源根・金貞明
(7)出版史研究部会
11月17日(オンライン)「『プレスの自由』の歴史的諸相――近代ドイツの出版法制と政治参加の観点から」的場かおり(日本出版学会賞受賞記念講演会)(出版法制研究部会共催)
(8)出版デジタル研究部会
9月13日(オンライン)「出版DX基盤「MDAM(エムダム)」開発背景や導入効果について」松下延樹・早坂悟
10月11日(オンライン)「電子出版市場急成長の一翼を担う電子書店と電子取次――KADOKAWAグループのデジタル事業戦略」橋場一郎・鷹野凌
11月28日(オンライン)「書籍のデジタル化と今後の展開――『パブリッシング・スタディーズ』第4章第3節報告」林智彦・鷹野凌
1月23日(オンライン)「雑誌のデジタル化と今後の展開――『パブリッシング・スタディーズ』第5章第3節報告」清水一彦・梶原治樹
(9)出版編集研究部会
4月21日(オンライン)「編集者の編集論を編集すること――『編集の提案』から」宮田文久
1月25日(オンライン)「漫画編集者としてのひとつの生き方」金城小百合
(10)出版法制研究部会
11月17日(オンライン)「『プレスの自由』の歴史的諸相――近代ドイツの出版法制と政治参加の観点から」的場かおり(日本出版学会賞受賞記念講演会)(出版史研究部会共催)
(11)翻訳出版研究部会
今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(12)MIE研究部会
7月25日(専修大学神田キャンパス及びオンライン)「江戸川大学の雑誌制作教育」本多悟
10月21日(専修大学神田キャンパス及びオンライン)「武蔵野大学の雑誌制作教育」上田宙
(13)関西部会
3月4日(オンライン)「雑誌出版とジェンダー ――『婦人文藝』主宰者としての神近市子を中心に」石田あゆう
6.プログラム委員会
総務委員会と調査研究委員会によって構成される合同委員会を開催し、研究発表会の企画・運営に当たった。
(1)春季研究発表会(2022年5月14日、日本大学法学部神田三崎町キャンパス)
〈研究発表〉
1.「災害ジャーナリズムの役割実践に関する研究――熊本県川辺川ダム建設の新聞報道を事例に」本多祥大
2.「出版における経営・広告戦略としてのメディアミックスとその課題――出版原作の映像等二次制作における、監修と制作随意性に対する考察を中心として」公野勉
3.「装丁のイメージ画像が書籍の購買意欲に及ぼす影響」岡野雅雄・浅川雅美
4.「コレクタブルカードとナショナリズム――レームツマの「煙草カード・アルバム」を例として」竹岡健一
5.「投稿誌『わいふ』の言説空間の構築について」豊田雅人
6.「雑誌『美術新報』による文部省美術展覧会報道の批評性とその意義」日比野未夢
7.「陸軍恤兵部と五日会――『銃後の我等』について」大澤聡
〈特別講演〉
1.「出版業界の抱える課題と改革の方向性――書店・流通の視点から」近藤敏貴
〈ワークショップ〉
1.「ジャーナリズムの倫理と実際――出版と放送の視点から考える理論と実践的課題」塚本晴二朗・笹田佳宏・富川淳子・石川徳幸
2.「学協会活動のアクセシビリティを考える――日本出版学会の活動を中心に」植村八潮・野口武悟・池下花恵・植村要
(2)秋季研究発表会(2022年12月3日、追手門学院大学総持寺キャンパス)
〈研究発表〉
1.「雑誌記事の言説からみる「推し活」のメディアイメージ」田島悠来
2.「MIEでの雑誌つくり:教員・指導者用マニュアル2――手描きラフの重要性と追加プログラム」清水一彦
3.「大学図書館における人文社会系の専門書の所蔵状況――出版社を対象とした試行的分析」久保琢也
4.「第二共和政期バルセロナにおける本の日とサン・ジョルディの日の「接続」――特に空間史的分析を中心に」菊池信彦
〈ワークショップ〉
1.「兵田印刷工芸が支えるラノベ聖地巡礼とコラボ企画――「チラムネ福井コラボ」のこれまでとこれから」山中智省・貝淵友哉・西中辰也
2.「『出版学』を問い直す――『パブリッシング・スタディーズ』を題材に」森貴志・塚本晴二朗・村木美紀・芝田正夫
7.日本出版学会賞
(1)受賞図書・論文
第43回日本出版学会賞は、下記のとおりである。
【日本出版学会賞奨励賞】
的場かおり 著『プレスの自由と検閲・政治・ジェンダー ――近代ドイツ・ザクセンにおける出版法制の展開』(大阪大学出版会)
中村督 著『言論と経営――戦後フランス社会における「知識人の雑誌」』(名古屋大学出版会)
【日本出版学会賞特別賞】
東京都古書籍商業協同組合 編『東京古書組合百年史』(東京都古書籍商業協同組合)
大宅壮一文庫(大宅壮一文庫のこれまでの出版研究への貢献に対して)
(2)日本出版学会賞審査委員会
日本出版学会賞審査委員会は、第44回日本出版学会賞の審査にあたった。
(3)受賞記念講演会
1.10月17日(オンライン)「戦後フランスにおける言論誌の軌跡」中村督
2.11月17日(オンライン)「『プレスの自由』の歴史的諸相――近代ドイツの出版法制と政治参加の観点から」的場かおり
8.『出版研究』編集委員会
『出版研究』編集委員会は、学会誌『出版研究』の企画・編集にあたり、第52号(A5判、136頁、600部、定価:本体2,600円+税)を2022年4月に発行し、引き続き第53号(A5判、104頁、600部、定価:本体2,600円+税)の編集をおこなった。
9.広報委員会
広報委員会は、学会活動に関する対外的広報活動を随時おこなうとともに、学会案内の作成、および『日本出版学会会報』の企画・編集にあたり、次の各号を発行した。
第152号=16頁、2022年4月15日(700部)
第153号=36頁、2022年10月31日(700部)
また、公式ウェブサイトの充実をはかり、情報発信をおこなった。
10.関西委員会
関西委員会は、調査研究委員会と協力して、学会の秋季研究発表会の運営にあたった。
11.国際交流委員会
国際交流委員会は、第20回国際出版研究フォーラム(IFPS)の開催にあたり、中国編輯学会との連絡にあたった。また、第21回国際出版研究フォーラム(日本開催)に向け、企画・運営をおこなった。
12.役員(2024年度総会まで)
会長=富川淳子
副会長=清水一彦 中西秀彦 山崎隆広
理事=飛鳥勝幸 安部由紀子 池下花恵 石川徳幸 石田あゆう 伊藤民雄 植村要 牛山佳菜代 梶原治樹(事務局長) 駒橋恵子 鈴木親彦 鷹野凌 玉川博章 長尾宗典 中村 幹(財務担当) 橋元博樹
秦洋二 本多悟 宮下義樹 村木美紀(事務局次長) 森貴志 山中智省 山中秀夫 湯浅俊彦
監事=茨木正治 塚本晴二朗
13.委員会メンバー
(◎=委員長・部会長、○=副委員長)
(1)総務委員会=◎石川徳幸 牛山佳菜代 梶原治樹 清水一彦 玉川博章 富川淳子 中西秀彦 中村幹 村木美紀 森貴志 山崎隆広
(2)調査研究委員会=森貴志
学術出版研究部会=◎橋元博樹 山崎隆広 吉田拓歩
雑誌研究部会=◎山中智省 玉川博章 石川徳幸 田島悠来
出版アクセシビリティ研究部会=◎野口武悟 植村要(担当理事)
出版技術研究部会=◎矢口博之 中村幹(担当理事)
出版教育研究部会=◎伊藤民雄 ○本多悟 清水一彦
出版産業研究部会=◎鈴木親彦 岡部友春 橋元博樹
出版史研究部会=◎長尾宗典 柴野京子 石川徳幸
出版デジタル研究部会=◎鷹野凌 梶原治樹 徳永修 藤井健人 堀鉄彦 矢口博之
出版編集研究部会=◎飛鳥勝幸 小林えみ 吉田拓歩
出版法制研究部会=◎宮下義樹
翻訳出版研究部会=◎柴田耕太郎 安部由紀子(担当理事)
MIE研究部会=◎清水一彦 富川淳子
関西部会=◎中村健 石田あゆう 磯部敦 中西秀彦 秦洋二 村木美紀 山中秀夫 湯浅俊彦
(3)『出版研究』編集委員会=◎玉川博章 飛鳥勝幸 稲田隆 上田宙 鷹野凌 辻泉 中川裕美 山崎隆広 山中智省 山森宙史 吉田拓歩
(4)広報委員会=◎牛山佳菜代 石川徳幸 秦洋二
(5)関西委員会=◎中西秀彦 石田あゆう 磯部敦 中村健 秦洋二 村木美紀 山中秀夫 湯浅俊彦
(6)国際交流委員会=◎山崎隆広 植村八潮
(7)日本出版学会賞審査委員会=◎富川淳子 塚本晴二朗 石川徳幸 川井良介 駒橋恵子 鈴木親彦 村木美紀
(8)プログラム委員会=◎宮下義樹 駒橋恵子 湯浅俊彦
(9)産学連携プロジェクト=梶原治樹 村木美紀
14.『パブリッシング・スタディーズ』プロジェクト
日本出版学会とは、いかなる学会なのかを明確にするための出版物を刊行しよう、というこのプロジェクトは、2022年4月に書籍を刊行することができ、プロジェクトが終了した。
15.「産学連携」プロジェクト
出版学会と出版業界の新しい連携を模索したこのプロジェクトにより、出版文化産業振興財団からも調査研究での協力要請を受けた。また、2022年度春季研究発表会にて、出版文化産業振興財団の近藤敏貴理事長の特別講演を開催した。