「知られざる出版業界の巨人・図書館流通センター」谷一文子(2025年2月15日開催)

■日本出版学会 出版教育研究部会、出版産業研究部会、関西部会共催 開催報告

「知られざる出版業界の巨人・図書館流通センター」
 谷一文子 (図書館流通センター代表取締役社長)
 伊藤民雄(実践女子大学図書館)*司会

 
1.はじめに
 2024年6月の日本出版学会春季研究発表会において緊急シンポジウム「「書店・図書館等関係者における対話の場」の再検証」が行われ、日本出版学会においてもこれまで以上に「図書館」を意識する契機になったと思われる。
 本部会では、図書館ルートが出版流通で果たす役割について理解を深めることを目指し、講師の谷一氏に、出版・書店関係者には馴染みの薄い「図書館ルート」における、株式会社の図書館流通センターの位置、本の仕入れ、図書館への本の納入と仕組み(ベル、ストックブックス等)、現在と今後の同社の事業展開をお話しいただいた。
 
2.谷一文子氏「TRCと図書館,出版」
 最初に年表形式で図書館流通センターの沿革、主な出来事、導入サービスが紹介された(谷一氏は、1991年に図書館流通センターに入社し、データ部に配属された)。続いて、本日の講演内容の前提となる公共図書館の経年変化と指定管理受託館実績推移が説明された。以下、4部構成で講演が行われた。

・第1部 TRCMARC
 同社における新刊図書MARCの作成は、同社では書店発売に間に合うように、おおよそ5営業日で作成される。MARCを利用して新刊図書情報誌『週刊新刊全点案内』が編集され、毎週火曜日に発行される。金曜日にMARC提供された場合、翌週金曜日に同誌の最終校正が行われ、翌日から印刷し、月曜日に発送し、火曜日には全国の図書館に届く。同誌を日本の公共図書館の約9割が利用する。新刊図書だけでなく、要求に応じ図書館既存蔵書(既刊)のMARC作成、視聴覚資料、雑誌、図書館用電子書籍のMARCも作成する。MARC項目は常に見直され、MARC購入館からの要望により新設する。TRCMARCは、受発注システム兼レファレンスツールのTOOLiにも活用されている。また、谷一氏も図書館スタッフ時代に悩まされたという、市場で人気の高い新刊図書の入手難を回避するために、(公)図書館振興財団新刊選書委員会の意見を参考に、自動配本する新刊急行ベルというサービスも行っている。

・第2部 図書館への本の納入
 同社顧客用の業務紹介動画を利用し、新座ブックナリーが担う物流が詳説された。同社の特徴は在庫と装備(加工)は同じ場所で行う。在庫能力は最大200万冊で、注文在庫ヒット率は95%である。新刊図書のラベル貼付と本のフィルムコーティングを行う装備は手作業であるが1日最大4.2万冊の装備を可能としている。顧客のTOOLiを通した発注に対し5日目には出荷している。

・第3部 書店と出版社と図書館
 谷一氏からは、「図書館が発展すると[出版社と書店は]困るの?」という問題提起がされ、書店議連、経済産業省の書店新興プロジェクト等の最近の動向が説明された。谷一氏からは2022年度に修了した社会大学院時代に図書館評価基準と研究したことから登録者数、貸出数から、ISO16439を利用して、対個人、対親機関、対社会、対経済のインパクトで測定できないか、という考えが示された。さらに豊田恭子氏の著作を引用して、21世紀の評価は、「ストーリー、変革したもの」から行うようにしたいとの話があり、図書館を本を貸出す場所から関係性を生み出す場へと転換するとともに、業界全体で図書館の競争相手は書店ではなくNetflixだと認識すべきだと話された。

・第4部 今後の図書館
 全国で開館する新図書館の状況について写真を交えながら説明があり、続いてTRCの新たな取り組みとして、Library KIOSK、移動図書館LiBOON、図書館本大賞、自走型ロボットtemi等が紹介された。障害者差別解消法と読書バリアフリー法の施行を経ても市場が形成されにくかった公共図書館向け電子図書館はコロナ禍によって非来館型サービスのニーズが高まり、TRCのシステムも含め全国的な導入が進んだ。
 
3.議論(ディスカッション)
 一問一答式の形式で質疑応答に入った。同社の事業別売上構成比で指定管理の占める割合の質問に対して増加している。国会図書館MARCと民間MARCの関係性の質問につい対し、一時期協力関係の構築が模索されたが不調に終った。スタッフの育成と人材確保に対するヴィジョンについての質問に対し各種研修の実施、認定司書取得支援、優秀な人材養成と確保ために同社内での司書採用を進めている。研究分析のためのTRCMARCの利用についての質問に対しできるだけ協力したい。TOOLiサービス導入前後での劇的な変化はあったかの質問に対し、図書館としての資料確保やサービス改善に繋がった。またTRCMARCを常に見直すことにより資料確保の面で競合他社より優位に立っている、と以上回答された。
 
日 時: 2025年2月15日(土) 午後2時25分~3時55分
会 場: Web会議システムZoomを利用したオンライン開催
参加者: 申込者131名 (会員42名、一般89名)
     当日の聴講者は100名程度(推定)

(文責:伊藤民雄)