『〈著者〉の出版史―権利と報酬をめぐる近代』をめぐって
浅岡邦雄
今回の報告は,2009 年12 月に刊行された拙著『〈著者〉の出版史?権利と報酬をめぐる近代』について,当該テーマに関する史資料の掘り起こし及び研究アプローチの方法について述べたものである.
拙著のテーマである,著作に関する権利と報酬という問題系は,著者と出版者との私的な経済的営為にわたるものであり,史資料の掘り起こしがきわめて困難な領域であるが,それを突き破る方途として2 点あげた.
ひとつは,一次史料を発掘するための古書市場における史料情報のチェックや公的機関が所蔵する当該史料のサーチを欠かさないこと.いまひとつは,既存資料を従来とは別の視点からアプローチすること.前者の例をあげれば,「「同盟医書販売組合」の設立と医学書の出版」等がそれであり,後者の例は「岩野泡鳴日記にみる著書の出版」等が該当する.当該テーマのように,史資料の掘り起こしがむつかしい領域の場合,絶えざる史資料情報のチェックとサーチが不可欠の作業となる.
次に,研究アプローチについてであるが,出版物あるいは出版法規をどのように解読するか,という問題がある.拙著では,春陽堂や博文館などの刊行物に付載の「奥付」を解読して,それが示す経済的意味を明らかにした.また,その当時施行されていた出版法規を条文のみを解釈するだけでなく,その法規が実際にどのように運用されていたのかを解読する必要性を『官報』などの例をあげて強調した.こうした研究方
法は,どのテーマにも普遍的に適用が可能なわけではなく,個々のテーマによってそれに適合する研究アプローチの案出が不可欠であろう.
なお,この報告では,拙著所収の諸論文のうち,如上の2 点に限定して報告したもので,拙著全般に及ぶものでないことを付言しておく. (文責:浅岡邦雄)