日本出版学会が,創立35周年を契機として始めたのは,名実共に学術研究団体としての歩みである。そこには,これまでの年月の中で育った多数の研究者と研究成果,さらにその研究のフィールドである出版関連産業の存在があり,かつ,学会を一貫して支援してきた賛助会員の協力が存在した。我々は,それらの蓄積のもとに,次のような展望と計画をもって学会活動を行いたい。
■ 1.研究活動のネットワーク化
これは研究者相互のネットワーク化であると同時に,他の関連研究団体とのネットワーク化である。例えば,国際図書史学会が短い年月の中で世界有数の出版研究団体としてその活動を拡大した背景には,多数の学術研究団体との交流,協力がある。出版研究が学術研究の基礎的部分を構成するという点においても,このようなネットワーク化はぜひとも必要なことと思われる。
■ 2.研究活動の国際化
既に研究者個人のレベルにおいては,国際的な研究が行われており,学会としてもそれらの活動を支援し,今後共研究活動の国際化に積極的に取り組みたい。とりわけ,1984年以降継続してきた国際出版研究フォーラム(国際シンポジウム)の第12回に相当する国際シンポジウムを,東京経済大学と協力することによってわが国に誘致し,研究者の国際交流や研究成果の共有において大きく前進したいと考えている。
■ 3.会勢と財政の充実
学会が歩んだ長い年月の中で,次第に世代交代が行われることは避けることができない。学会活動に貢献した多数の人々がその第一線を去りつつあると同時に,新しい研究者たちが学会活動に参加しつつある。とりわけ,ウェブサイトによる情報の公開によって,自己の選択によって加入する事例が増加していることから,学会の活動について一層の公知化をはかり,会勢の充実に向かいたい。
さらに,2005年度において実現した学会財政の黒字構造への転換によって,従来その主要部分を占めていた管理関係費用から,活動費に比重を移し,より円滑な学会活動,研究活動の支援にこれらの財政的資源を投入したいと考えている。
■ 4.事 業
(1)調査研究の推進
1 研究部会活動の推進
学会活動が活性化し,組織の拡大を可能にするひとつの重要な要因が研究部会であることは既に実証済みであるが,これらの中には,極めて活発に開催されているものと,必ずしもそうではないものがあり,今後それぞれの事情と参加者の希望等を組み入れながら,従来以上に充実した内容にすべく工夫を重ねたい。
2 研究発表会の拡充
年を重ねる毎に,当学会の研究発表会においてはその対象の多様さや研究の深化がみられるようになった。このような事実は学会活動の重要な一部門であり,今後共その強化をはかりたい。とりわけ,2006年の岡山における秋季研究発表会は,新しい試みとしての成果をあげていることから,より広い視野に立った研究発表会の開催に向けて努力を重ねたい。
(2)学会誌・会報の発行
1 学会誌『出版研究』
第37号の企画・編集を進め,年度内の発行を予定する。
2 『日本出版学会会報』
本年においては3号の発行を予定し,内容の充実を図るとともに,ウェブサイトとの連動によって学会の公知化に資することとしたい。
3 会員名簿の改訂
既に準備は行われているものの,刊行には至らなかった学会員名簿の刊行を実現したい。
(3)国際交流の促進
東京経済大学との協力のもとに開催される国際シンポジウムを中心とした国際交流を推進し,「出版研究国際交流基金」の創設等,国際交流委員会による恒常的な交流活動を行いたい。
(4)日本出版学会賞の審査・授与
日本出版学会賞は,創立10周年を記念して開始され,その後周年事業毎に計画を更新しつつ現在まで継続している。当期においては,第26回日本出版学会賞の審査・授与を行う。
(5)学会創立35周年記念事業への取り組み
学会創立35周年記念事業については,その後の状況の変化に対応した事業計画の改定を行う中で,下記の事業を継続して行う。
1 国際シンポジウム(第12回国際出版研究フォーラム)の開催
東京経済大学コミュニケーション学部開設10周年記念国際シンポジウムに共催者として参加することによって,中国,韓国,日本の出版研究者が一同に会し,シンポジウムを行う。会期は,2006年10月28日~29日であり,東京経済大学,および日本出版学会双方に設置された実行委員会において準備が進められている。
2 日本出版学会35年史の編纂と刊行
前期においては,従来の編集委員会に,出版企画委員会を合流させ,新たに『日本出版学会35年史』刊行委員会を発足させ,資料の収集と刊行の準備を行っており,2007年には刊行の予定である。
3 日本出版学会賞の継続
当学会設立10周年を記念して設置された日本出版学会賞は,既に第27回が実施されているが,出版研究の推進のために今後共継続する計画である。
4 募金活動
以上の事業を可能とすべく,当学会は以後2007年3月まで募金活動を継続し,新たに設定された目標額の達成をめざしたい。
(6)その他
1 出版事業関係
2005年度に第10号を刊行した『日本出版史料』は第10号をもって完結する。その他の出版物についてはその実現を目指して検討を行う。
2 その他
当期においては選出された役員による新たな体制のもとに,次の時代への歩みを確実に開始したい。