大正期『週刊朝日』にみえる索引的編集から読み物への変化
――戦前期週刊誌の基礎研究
中村 健
(大阪市立大学)
1.研究の目的と手法
『週刊朝日』(以下、同誌)の誌面分析により、大正期の編集方針の変化を探った。創刊時(1922(大11)年)、同誌の編集方針は、鎌田敬四郎(出版局長)による“索引的編集”と赤松静太(発行兼編輯兼印刷人)の“読み物”路線の二つが併存していたが、大正期を通じて“読み物”路線へと収斂していく。“索引的編集”は、「全誌をおよそ三等分(=週間/インサイド/経済週報)して、一部をニュース本位(=週間)、一部を学芸および家庭・娯楽の記事(=インサイド)に、一部を経済記事(=経済週報)にして、読者の希望にしたがって、これを一つ一つ分割して保存しうるようにした」(鎌田敬四郎「昭和四年春まで 週刊朝日生い立ちの記」『週刊朝日』1939年7月2日号、( )内は報告者が追記した該当する記事カテゴリ)もので、新聞の延長線上にある編集である。一方、赤松の“読み物”路線は、硬軟まぜた週間のダイジェストや、大衆向けの娯楽読み物を掲載するもので、雑誌としての週刊誌を目指すものといえる。
週刊誌研究の先行研究は、週刊誌研究会編『週刊誌』(三一書房、1958年)に始まり、2000年代に山川恭子が『週刊朝日』『サンデー毎日』総目次の刊行とともにいくつかの論考をまとめ基礎研究が進んだ。
本報告では先行研究をふまえ次の方法で調査を行った。
1)先行研究で示された大正期の編集の分岐点として1922年10月(『週刊誌』65頁)と1924年10月(前掲鎌田1939)の2説について、年表による事項整理で妥当性を探った。
2)『週刊朝日』は半年ごとに総索引を発行している。索引は“索引的編集”に重要なツールと考え、本紙『東京朝日新聞縮刷版』(以後、東朝縮刷版)の分類とを比較し変化をみた。
3)読者の受容を探るため、1927(昭2)年2月に掲載された読者評「週刊朝日と私」84件を分析した。
4)読み物の分析として「週刊朝日と私」で好きな記事として多くの票を集めた実話「本当にあった事」について、記事の構成や見出しを分析し、その特徴をまとめた。
2.考察結果
1)創刊時、誌面は週間/インサイド/経済週報の3カテゴリに分けて記事が掲載され、1924(大13)年10月26日号で経済週報欄が終了、同月発売の『東朝縮刷版』1924(大13)年7月号に重要問題解説、内外時事日誌が追加されたことから、ダイジェスト機能は『週刊朝日』から新聞縮刷版(月刊)へ移行したといえる。この点から1924年10月のほうが大きな変化である。
2)同誌と本紙『東朝縮刷版』の索引の分類を比較するため、同誌第一巻の総目次と同じ時期の『東朝縮刷版』を使用した。同誌の「週間」の72%、「インサイド」の40%の分類が『東朝縮刷版』の分類と一致したため、「週間」が新聞の縮刷版と近い項目を持つ。なお「週間」はダイジェスト記事(週間大勢・内外日誌・各国・社会・運動記事・学界消息・東西南北・内外の主要出来事早わかり)を集めた誌面である。次に、「週間」が同誌に占める割合を定点調査した。創刊時は33%を占めていたが、1923(大12)年10月から10%をきり、1926(大15)4月からは3~6%にまで下がった。一方で、文芸記事、育児、園芸、少年少女、釣りなど趣味・子供に関する分類数が新聞より同誌のほうが多かった。同誌は新聞では扱わない記事を多く掲載し、新聞と補完関係にあったといえる。
3)回答者84名の居住地域は、大阪府(11名)が一番多く近畿地方が26名に及ぶ。家族で読みまわすことが多く、製本して保存した家族もあった。購読理由は、「月刊誌より安い」が一番多く、「新聞の補完」するものとして読むひともいた。人気記事は、文芸作品、政治記事、連載(本当にあったこと、地域色、そこばくの言)であった。購読理由と編集方針を結びつけて考えるならば、“読み物”に関する部分は「月刊誌より安い」「新聞の補完」、“索引的編集”に関する部分は「新聞の代わり」があたると考えられる。
4)人気連載「本当にあった事」は読み物路線を進める赤松の代表的な編集企画と位置付けられる。編集方法は、赤松が〔決定権をもつ編集者〕としてのぞみ、常司鈴太郎が〔職能的な書き手〕として取材・執筆し、白石凡は〔職能的な編集者〕としてリライトなどの編集作業に従事した。
記事の特徴として次の4点があげられる。
①事件の情報が綿密に示されている。
②主に関西圏の最近の事件である。
③逮捕・起訴された事件を扱っているため、推理的興味ではなく、一般人が犯罪に手を染める怖さが強調されている。
④裁判記録の引用を使って心理描写を行う点である。
編集の特徴としては次の2点があげられる。
①挿絵がない。
②見出しは煽るが、文章は煽情的ではない。
このうち、①は同誌における文芸作品の編集と同様のスタイルをとっている。