「本というマイクロコスモス」髙木毬子(2021年9月13日開催)

■ 日本出版学会 関西部会・出版技術研究部会〔共催〕
 開催要旨(2021年9月13日開催)

「本というマイクロコスモス」
髙木毬子(同志社女子大学学芸学部メディア創造学科准教授)

 本部会では、創作活動を行いながら教鞭をとる髙木毬子氏を迎え、ブックデザインが秘める創造性・可能性や教育効果についてお話を伺った。前半は高木氏のこれまでの創作活動について、後半はゼミ生が「ブックデザイン」に取り組む授業「リ・デザイン・プロジェクト」の紹介の二部構成。本報告ではその一部しか紹介できないのが残念である。
 髙木氏は、本=作品という考えのもと、執筆からブックデザインまでトータルに自ら手掛ける創作スタイルをとっている。これまで和紙、お茶、タイポグラフィ、バウハウス(山脇道子氏)をテーマにした本や、テーブルマナーをピクトグラムで表現したり、オノマトペ、色とデザインで表したラブストーリーなど、多彩な手法を用いて10冊の本を発行してきた。いくつかの本は、ドイツエディトリアルブックデザイン財団賞 、ADCデザイン賞(アートディレクタークラブ・デザイン賞)、レッド・ドット・デザイン賞、iFデザイン賞を受賞。現在、オノマトペをテーマにした本と「e/moji graphy」と名付けた2冊の本を制作中である。
 髙木氏は創作活動について、「本を制作する事によって視界が広がる。そして、読み手の世界を広げる」という。作者は創作にあたって多くのインプットを行うため視界が広がる。読み手は本を読むことで世界が広がる。本は作者と読み手の世界を広げるメディアである。また、髙木氏は本が放つ存在性について「コンテンツと形が結びつき、本は作者が作り上げる一つのマイクロコスモスとなる」とまとめた。
 ゼミで行っている「リ・デザイン・プロジェクト」(※)は、髙木氏の出版観に基づく授業といっていいだろう。学生が本を選び、読書中に見えてくるイメージを自ら書体、紙、印刷、製本などをコーディネートしながら、本の形に造形化(リ・デザイン)していく。ゼミ生の多くは自ら製本し、紙、書体、印刷にこだわり、最近は自分で印刷屋さんを探す学生も増えているとのことだった。
 最後に、講演後の質疑応答で、私(中村)が出版の原点だと感じた質疑応答を紹介して、報告の終わりとしたい。
 「コンテンツに合ったデザインを見つけるまでの過程は、どのような感じなのでしょう?何から考え始めますか?」という質問に対して、髙木氏は、テーマについて調べながら「その時代の状況やテーマに向いた“色”、その内容を伝えるために相応しい“書体”(読みやすさ、独自性、時代)について考えます」と述べた。バウハウスをテーマにした山脇道子氏の本の場合、装丁は、最初は紅色と思っていたが、書いていくうちに、黒に近い紺色と明るい紫の2色刷りにイメージが変化したとのこと。そして、「製作の途中に作品をみて意見をくれる人が大切。私の場合はお世話になった出版社の編集長さんです。彼女はクリティカルな指摘をいつもくれたので、説明する時、どきどきでした」と高木氏は編集者の重要性を語った。私は髙木氏のように執筆だけでなくブックデザインまで手掛けるスタイルにおいては、髙木氏が編集者を兼ねているように想像していたのだが、このコメントに、出版のスタイルは様々であっても、編集者の重要さは変わらないことを認識した。

※参考)
同志社女子大学メディア創造学科 2020年度進級制作展COMPASS「コンパス」
https://shinkyu.dwcmedia.jp/2020compass/ 
(文責:中村健)

日 時:2021年9月13日(月) 18時00分~19時40分
場 所:オンライン開催(Zoom)
参加者:参加登録36名、当日参加者29名(内会員12名)
主催:関西部会・出版技術研究部会