会長に選出されて  川井良介 (会報122号 2008年9月)

■ 会長に選出されて (会報122号 2008年9月)


 川井良介

 私達の日本出版学会は,来る2009年で創立40年を迎える。私自身は1976年の入会であり,比較的古い会員かと思われる。
 しかし,この4月に刊行された『出版学の現在――日本出版学会1969-2006年の軌跡』の編集に携わって,あらためて,ここまで学会が確立するまでの先輩諸氏のご苦労が推察された。
 一般に,研究者がいて,学会が成立するのではあるが,出版学会は,学会を設立することによって,研究者を育成し,出版学の確立を図ろうとした「逆転の発想」によって誕生した学会なのである。
 このためか,研究発表会の発表者の確保には,大変苦労したようだった。先の『出版学の現在』によれば,春の総会は開催されても,研究発表会が中止になったこともあったという。
 このようなことがあったためか,学会設立のメンバーが「(創立10周年に当って)……10年の歩みを想い『よくぞここまで来た』」(第二代布川角左衛門会長),あるいは「……出版学という学問は成り立つのかどうか」「出版学会が順調に育っていけるのかについて」「少なからぬ懸念があ」った(第三代美作太郎会長)という。
 いまも,学会設立メンバーで元気な会員は第四代清水英夫会長ただ一人だけだが,清水前名誉会長は「出版学会のメンバーは200人が限度だと思っていた」という。これらの発言に接するとき,ある種の感慨を否定できない。
 出版学の確立の困難さは,その学問的性格のためでもある。日本の多くの学問科学は欧米をモデルとして発展してきた。これに対し,出版メディアを全体として論究しようとする出版は,日本や韓国において誕生したものである。出版学は「模倣の学問」ではなく「内発的学問」(箕輪成男)である。海外に模範を求められない出版学の研究は難しい。
 しかし,学会設立有志6名で始まった学会も,今や360名の正会員を数えるに至った。『出版研究』は38号を数え,春秋の研究発表会の他にも12の研究部会活動が展開されている。さらには,「国際出版研究フォーラム」も13回の実績がある。このように出版学会は,着実な歩みを刻んでいる。

 この度,日本出版学会の第九代会長に選出された。学会は,出版研究を促進する団体である。会長として,さらに一層,その推進を図りたい。
 具体的には,若い研究者のための学会でありたい。『白書出版産業 第2版』の刊行は,これに利用できるだろう。
 ところで,出版研究は,純然たるアカデミックな世界に限られるものではない。実際の出版活動に有益な研究も期待される。
 その意味では,日本書籍出版協会や日本雑誌協会などの団体の企画に学会として,もっと連携があってよい。これまでも,個々の会員が,これらの企画に参加しているが,学会の存在をアピールして協力関係の強化を図りたい。
 これらを実現するために,会員のみなさんのご協力をあらためてお願いしたい。

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